染織技法の中でも非常に古い歴史を持つのが刺繍です。
日本における刺繍の歴史を簡単にまとめてみました。
日本刺繍の歴史
・「刺繍」の表す意味
・日本最古の刺繍「天寿国曼荼羅繍帳」
・追善の工芸としての「繍仏…しゅうぶつ」
日本刺繍の歴史
「刺繍」の表す意味
室町時代 梅松文様水干
「刺繍」の表す意味として2つあります。
まず、刺繍の「繍…ぬいとり」は「綉…ぬいとり」や「秀」という文字に通じ「ぬいとり」の意味を持っています。
「ぬいとり」とは布地に模様や文字などを色糸で繍って表すことを意味します。
「綉」は「しゅう」「ぬいとり」「うつく(しい)」と読み、色糸で模様を繍いつづること、にしき、美しい模様の織物、美しいの意味があります。
刺繍の持つ装飾的世界を表しています。
もう一方の「刺」は「箴…ぬいばり」の意味があり、2枚の布地を縫い綴じていくことを表し実用的な裁縫の意味を表しています。
「縫」は糸が布地の上で逢うことを表し裁縫の意味に通じます。
時代と共に「縫」も「繍」と同じように用いられるようになったとされています。
なんだか、ややこしくなりました。
刺繍には「刺」の裁縫を意味する「実用的世界」と「繍」の「装飾的世界」の2つの意味があると素直にとらえるべきか・・・
刺繍の「刺」「繍」には、時代とともに両方に「ぬいとり」の意味、「装飾的世界」が込められていると、とらえてもよいのか・・・
確かなのは、刺繍の「繍…ぬいとり」に装飾的世界が表されているということのようです。
日本最古の刺繍「天寿国曼荼羅繍帳」
「天寿国曼荼羅繍帳」
日本で最も古い刺繍といわれているのは、刺繍遺品として知られている「天寿国曼荼羅繍帳」です。
奈良の中宮寺が所蔵するもので、飛鳥時代に聖徳太子が昇天したであろう天上の世界を刺繍によって絵画的に表現したものです。
橘大郎女が采女たちと共に繍った、あるいは繍わせたとされています。
この「天寿国曼荼羅繍帳」の複製を見たことがあります。
中宮寺の国宝菩薩半跏像の前の和室にさりげなく置いてありました。
手で触れようと思ったら触れられるくらい(そんなことはしませんが)何も遮るものがない状態で見ることが出来ました。
因みに、国宝菩薩半跏思惟像(みろくぼさつはんかしゆいぞう、みろくぼさつはんかしいぞう)は美しい菩薩像の1つとして、特に女性に人気のある菩薩像だそうです。
当時はきもの文化検定の勉強でちょうど「天寿国曼荼羅繍帳」を覚えたばかりの頃だったのでとても感激し興奮したことを覚えています。
あまりにも興奮しすぎて、帰り道では松の木に頭をぶつけてしまいました。
痛かったけど、懐かしい思い出です。
追善の工芸としての「繍仏…しゅうぶつ」
鎌倉時代 刺繍大日如来像
仏教が興隆した飛鳥時代、鎌倉時代の阿弥陀仏の信仰の流行りにより、作善の一環として繍仏が流行したといわれています。
(平安時代は繍仏ではなく絵画がその役目を引き継いでいます。)
作善(さぜん)・・・仏縁を結ぶための善事を行うこと。造仏・写経などがあります。
加賀繍では、お仏壇の前机に飾る打敷に、加賀繍を施したりもします。
そういえば、以前「日本刺繍、加賀繍は写経と似ている、写経をしているような感じ」や日本刺繍による文字の表現を「究極の写経」と聞いたことがありますがまさにその通り!ひと針ひと針、指先や針先に意識を集中させて、精神を一点に集中させてくれます。
知らず知らずのうちに、日々作善を行っているということになりますね。
日本刺繍、加賀繍に取り組んでいる時間は、雑念、煩悩から遠ざかることが出来るので、心が穏やかになりストレスを軽減するための助けになります。
逆に雑念、煩悩が強すぎる時は、繍に集中することが出来ず、結果として仕上がりにも納得がいかず、自分を見つめなおすきっかけにもなります。
いろいろありますが、とにかく楽しいです。
最近の私の煩悩は・・・
夏きもの、特に上布のお着物が大好きなのですが、なぜか冬真っ只中に春を通り越して夏きものの妄想が始まってしまいました。
季節の先取り過ぎです。(呆)
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