帯締めは着物の「装いの要」として、最後の仕上げとしてとても重要な役割を果たしています。
着物にいろいろな種類や格があるように、帯締めにもいろいろな種類や格があります。
帯締めの種類や格を知ることで、着物に合った帯締めや場にあった装い、コーディネートの幅が広がり、着物のお洒落がより一層楽しくなります。
帯締めとは
帯締めは着物を着るときに、帯の形が崩れないように押さえるために用いられます。
手組みのしっかりしたものを正しく使うことで、帯は良い形を保つことが出来ます。
帯締めにおいては使い心地の良さや締まり具合、体への添いなどが帯締め選びのポイントになります。
また、着物姿を完成するための最後に加える大切な仕上げが帯締めです。
帯締めは装飾的な役割が強く、着物や帯との色や素材の調和が大切になり見た目の美しさに影響を与えます。
帯締めの歴史
糸と糸を組み合わせていく組紐の技術は、中国、朝鮮から伝わりましたが、現在では日本独自のものとなっています。
お経の巻物の緒や袈裟の紐、武士の装束などに利用されながら発達してきました。
明治維新により武士社会が消滅し、明治9年の廃刀令により組紐の需要が減り、庶民へと普及していきました。
女性が着物に用いるようになったのは、江戸時代末期の文化14年に亀戸天神の太鼓橋が完成した時に、深川芸者が太鼓橋に形を似せて結んだお太鼓結びが始まりになります。
それまでの帯結びは引き抜きの結び方で、たれの部分がぶらぶらと揺れて固定されていませんでした。
ぶらぶらと揺れるたれ部分を固定させるお太鼓結びのために、帯締めや帯揚げが使われるようになりました。
当初は「丸ぐけ」という布を筒状に縫い中に綿を入れてくけた紐を締めていました。
他にも、当時人気だった歌舞伎役者が、衣裳の着崩れを防止する為に帯の上に締めた紐が、帯締めのルーツだという説もあるそうです。
明治時代に一般へのお太鼓結びの定着と共に、帯揚げや帯枕、帯留の組み合わせの常用が普及しました。
初期の帯締めは、しごき、真田紐、絞り染の布、織物製の平組か丸組を使い、刀の下げ緒を転用するなどし、帯を結び締めるための実用的な役割が強いものでした。
審美的役割としては3分紐などの細めの紐につけた帯留が、その役割を果たしていました。
帯締めや羽織紐に組紐の技術が取り入れられるようになったのは、一部の有識者による茶事においての伝統ある工芸組紐を、和装と調和するように帯締めや羽織紐に活用することから始まりました。
価値のある巻物や工芸品の箱に使われている紐を復元模造し、帯締めや羽織紐に工芸組紐を取りいてられたのですが、日本人特有の繊細な審美眼が工芸組紐の開眼に繋がりました。
帯締めの種類
組方の形状を大別すると「平組(平打ち)」「丸組(丸打ち)」「角組(角打ち)」の3種類に分けることが出来ます。
平組み(平打ち)
平に組まれた帯締めで、幅や厚みがあり安定感があります。
代表的なものでは「冠組」「高麗組」「三分紐」があります。
冠組
「玉子色」「白銀」「瓶覗」と同様に、着物の装いに取り入れやすく使いやすい色目です。
冠組(ゆるぎ・かんむり)は、平安時代に武官の冠に使われていた組紐です。
中央が半分に割れているように1本の線が入っているのが特徴で、こちら側が表になります。
断面はかまぼこ状になっています。
伸縮性に富み使い心地の良い組紐で、体の曲線に馴染む帯締めです。
普段使いに重宝する冠組ですが、洒落ものから礼装まで幅広く締められるから用途が広いのが特徴です。
冠組といえば「道明」の冠組が有名です。
初めに、冠組でいくつかの色目を揃えておくと活用頻度が高く便利です。
個人的には「玉子色」「白銀」「瓶覗」は使用頻度が高く万能色です。
角の当たりが優しいので、刺繍帯などの繊細な帯に使うと刺繍部分を傷めることなく使用することが出来ます。
高麗組は刀の下げ緒に使われていたといわれる組紐です。
厚みと幅が適度にあり結び上がりの形が綺麗なのが特徴です。
文字や文様を表す技法を用いるために利用される組方になります。
平組みで組まれている高麗組は格調ある美しさを備えています。金銀糸の入ったものは礼装用に合わせる帯締めとして重宝します。
冠組と比較すると、しっかりと幅があるので安定感も良く重厚感を感じられる帯締めです。
三分紐
現在の帯留は三分紐が通るものが主流になっているので、商品としても三分紐が主流になっています。
夏の帯は軽いものが多いので、夏の季節に三分紐の活用、帯留のお洒落を楽しむと、コーディネートの幅が広がります。
他にも二分紐や二分五厘紐、四分紐などがあります。
丸組み(丸打ち)
丸く組まれた帯締めで、細身で結びやすいのが特徴です。
結びやすいですが、断面が円形であることから緩みが生じる場合があります。
角組(角打ち)
丸組と締め心地や収縮性の特徴は似ていますが、面が4つあるため初心者には結びにくい場合があります。
夏向きのレース組み
帯締めは本来季節感がなく通年使ってもよいとされています。
しかし夏単衣や薄物の着物に袷用の帯締めが重く感じられるときのは、夏向きに作られているレース組の組紐が適しています。
コーディネートの目安は、袷の場合に準じます。
私も夏用にレース組を持っていますが、実際に使うのは「冠組」「三分紐」や幅が細いタイプや厚みの薄いタイプの帯締めを使用しています。
帯締めの格
「平組」>「丸組」>「角組」の順に角が高いとされています。
「平組」
幅の広いもの・・・未婚、既婚者の第一礼装に使用できます。
幅の狭いもの・・・お洒落着用や夏の季節に使用できます。
帯締めの中でも、最も格が高い組紐になります。
デザインや幅の違いでお洒落着用から礼装用まで使用することが出来ます。
訪問着や留袖などの礼装用には金糸や銀糸が組まれたものが適しています。
また、平組の中でも幅広のタイプは格が高くなるので、訪問着や留袖、振袖に使用することが出来ます。
三分紐などの幅の狭いものは、カジュアルな帯留めを付けてお洒落着として使用することが出来ます。
カジュアル以外でも、パールや宝石を用いた帯留と共に礼装用として使用することができます。
順に
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「丸組」
飾りの多いタイプ・・・未婚の第一礼装に使用できます。
シンプルなタイプ・・・普段着やお洒落着用に使用できます。
丸組の中でも飾りの付いている帯締めは格が高く、未婚の女性の第一礼装である振袖に使用することができます。
平組より格が下になるので、シンプルな丸組はお洒落着用に使用することができます。
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「角組」
3種類の中で格がいちばん下になるの組紐で、紬や木綿など普段着、お洒落着用に使用することができます。
帯締めの作り方
帯締めは組み方によってさまざまなデザインがうまれます。
組み方は作り手のアレンジによって無数にありどのように組むかによって使う台が変わります。
代表的な組台には「丸台」「角台」「高台」「綾竹台」があります。
帯締めを組む工程
染め
組み糸を染めます。
枠付け
糸を台に掛ける前に、必要な本数を揃えるために「小枠」という糸を巻く枠に、糸を巻く作業をいいます。
経切り(へきり)
1本の帯締めを組むために必要な、長さ、太さ、玉数に合わせて糸を揃える作業をいいます。
(「枠付け」と「経切り」の工程を合わせて「仕掛け」といいます。)
玉付け
準備した糸を台へ掛けていきます。
全体を1つにまとめて台に掛けた後、糸の先から「玉」に巻いていきます。
組む
台に掛けたいとを組んでいきます。
丸台
「丸台」は最もベーシックな組台で、800年頃から使われていたといいます。
丸組や角組、平組など様々な組紐を作るのに用いられています。
円形の台は「鏡」といい、鏡に「玉」に糸を巻いたものをセットして組んでいきます。
へらを使わず、糸玉の位置を置き換えて締める作業を繰り返し、組み上げていきます。
台の中心に開いた穴から糸玉を各方向に開いて置き、その位置を置き換えて組んでいきます。
組み上がったものは台の下に伸びていきます。
台の大きさや球の数、組方によってさまざまなデザインの組紐を作ることができます。
「冠組」「唐組」「笹波組」「唐組」「御岳組」など多彩な組を組むことが出来ます。
【大礼装展】≪有職組紐 道明≫謹製正絹帯締め笹浪組 曙光「藤×薄水色」
【大礼装展】≪有職組紐 道明≫謹製正絹帯締め笹浪組 曙光「み空×薄水色」
角台
丸台と並び基本的な台で、台の形が方形であるため「角台」と呼ばれていますが、組み上がるもののほとんどが丸組です。
丸台と同様に糸の置き換えと締めだけで組んでいきますが、上方向に組み上がるのでおもりを付けた吊り紐で引き上げていきます。
袋物の紐や羽織紐などに使われている、最もシンプルな組の四つ組はこの「角台」で組みまれています。
他にも「八つ組」「丸唐組」「平唐組」などを組ことが出来ます。
高台
複雑な組紐を組むことが出来る組台で、主に平組を組むことに適しています。
左右に広がるように置かれた糸を「ヘラ」で打ち込みながら組んでいきます。
「高麗組」「笹波組」などがあります。
綾竹台
「綾竹台」は武具の需要が盛んになった鎌倉時代からあり、別名「駿河台」ともいいます。
まとめた糸を手前に引き上下に架け換えて組み、緯糸を交差させることで経糸でデザインを出していく仕組み方で、縦方向に組目が出るのが特徴です。
高台と同様に「へら」で打ち込んで締め、伸びの少ない平組が組み上がります。
幅があり厚みのない紐が主流になります。
「綾竹組」「鎌倉組」などが組め、「綾竹組」では、糸のかけ方を変えることで多彩な組が可能になります。
帯締めの値段の違い
糸の染め方による違いでは、単色や多色染め、ぼかし染めなど染の工程により値段に違いが出てきます。
糸を巻きつけた「玉」を組み替えることで帯締めを組んでいきますが、この「玉」の数によって帯締めの値段が変わってきます。
使い勝手が良い帯締めで有名な「冠組」の単色のものでは、18,000円程の値段になっています。
「玉」の数が多いほど組む作業が複雑になってきますが、多いものでは「68玉」使われている帯締めもあり、値段も約80,000円程と高額になります。
「玉数」が大きいほどに、1玉に巻かれている糸の本数がすくなくなることから、しっかりとしているのにしなやかな感触があり、着物に慣れ親しんでいる方には手にした瞬間に「締まりが良い」と感じるほどです。
帯締め1本で帯を支えているので、機能面での帯締めの役割はとても大きいです。
見た目の華やかさも大切なのですが、着物の着用回数が多くなるにつけ、締まり心地の良い帯締めについつい手が伸びてしまいます。
帯締めの選び方
振袖
未婚女性の最高礼装になる振袖です。
近年では、振袖に合わせる帯締めが無地に金糸で柄を出した「高麗組」や「丸組」が多く使われています。
他の人とは異なる装い方では、紅白の亀甲柄を切り替えた帯締めで華やぎをプラスし、一味違ったお洒落をおすすめします。
色留袖
色留袖の装いでは、祝意を象徴する金銀糸の使われている帯締めを使うことが決まりごとになっています。
叙勲や式典などの格式の高い場面では、薄い地色に金糸で柄を表した高麗組の帯締めを使うことで、格式高い装いになります。
また、祝賀会などの一段落ち着いた場面では、金銀糸の原則は守りつつ、大ぼかしなどで糸染を施した高麗組などで、華やかさのある装いが素敵です。
訪問着
訪問着でのフォーマルな場では、装いを格調高くまとめる帯締めのコーディネートが大切です。
重ね段染めに金砂子を加えた高麗組や、金銀糸が使われていない場合でも名品組紐を復元したような凝った組紐の帯締めが、装いの格を高めてくれます。
帯締め
「装いの要」とも言われる帯締めは、着物の装いにおいて「画竜点睛」の役割を果たしています。
古代から、時代や身分に関係なく組続けられてきた組紐は、美しい糸と糸の組み合わせにより芸術の域にまで達しました。
「装いの要」と言われながら無難に済ませてしまう場合が多いと思いますが、帯締めのコーディネートのお洒落の可能性を追求してみるのも楽しそうです。
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