着物や浴衣を着る時、髪にそっと挿したかんざし(簪)は、後ろ姿を格段に美しく見せてくれる最高のアクセサリーです。しかし、「せっかく挿したのに、すぐにずり落ちてしまう」「一本で留めたいのに、うまく固定できない」と悩んだ経験はありませんか?
かんざしを美しく、そして一日中崩れないように固定するには、ちょっとした「プロのコツ」が必要です。
この記事では、かんざしをただ挿すのではなく、髪の毛の力を使ってしっかりと留める究極の固定術を、基本のステップから詳しく解説します。
もう挿し直しの心配は無用です!この正しい挿し方をマスターして、誰もが振り返る粋な着物美人になりましょう。
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髪に絡ませて固定する
着物のかんざしを「髪に絡ませて固定する」というテクニックは、かんざし一本で髪をしっかりと留めるための、最も重要な基本動作です。
この技術は、特に髪をねじり上げて夜会巻きのようにまとめる際に使われます。
- 「挿した後に倒す(ひっくり返す)」のが最大のポイントです。ただ髪に真っ直ぐ挿しただけではすぐに落ちてしまいます。
- 髪をまとめた部分(夜会巻きやお団子など)に一度挿した後、かんざしを頭皮側に倒し(180度近く回すイメージ)、地肌に近い結んだ髪に絡ませるようにして再度差し込むことで、しっかりと固定されます。
- このとき、頭皮をなぞるように、無理な力をかけずにゆっくりと挿し込むのがコツです。
さらにポイントをより詳しく、ステップごとにご説明します。
「髪に絡ませて固定する」の詳細ステップ
主に一本軸(一本ざし)のかんざしを使う場合の基本的な挿し方です。
ステップ 1:髪をまとめる(土台を作る)
- 髪をねじる: 髪を一つに束ね、時計回り(または反時計回り)に根元から毛先までしっかりとねじり上げます。このねじりがかんざしを固定する土台となります。
- 毛束を頭につける: ねじり上げた毛束を、頭の後ろ(襟足の上あたり)に沿わせるように持ち上げ、形を整えます。
ステップ 2:かんざしを挿し始める(毛束をすくう)
- 挿し始めの位置: ねじり上げた毛束の中心あたり、頭皮から指1〜2本分ほど離した位置に、かんざしの先端を上から(または斜め上から)差し込みます。
- 毛束をすくう: かんざしの先端が、ねじった毛束の真ん中を貫通するように挿します。
ステップ 3:かんざしをひっくり返す(絡ませる動作)
- かんざしを回す: 挿し込んだかんざしを、そのままの状態で頭皮側(地肌側)に向かって大きく倒します。
- このとき、かんざし全体を180度近く回転させるイメージです。
- 毛束と地肌の髪を絡ませる: かんざしを倒すことによって、かんざしの軸が、ねじった毛束と地肌に近い部分の髪(頭皮をなぞる髪)の両方をすくい取る形になります。これが「絡ませる」動作です。
ステップ 4:仕上げの固定(差し込む)
- 地肌に沿わせる: かんざしが髪と絡んだ状態のまま、先端が頭皮をなぞるように、まっすぐ下(またはまとめ髪の中心)に向かってゆっくりと差し込みます。
- 完成: 軸の根元(飾りとの境目)が毛束に軽く隠れるか、毛束をしっかりと押さえつける位置まで挿し込まれれば固定完了です。
なぜこれで固定できるのか?
この方法で固定できるメカニズムは以下の通りです。
- てこの原理の応用:
- かんざしが毛束をすくい、さらに地肌側の髪をすくって「ひっくり返す」ことで、毛束全体が固定されます。
- かんざしは、地肌に近い髪を軸にして、ねじり上げた毛束を抑え込む「てこ」の役割を果たしています。
- 毛束の摩擦:
- ねじり上げた毛束がかんざしの軸にしっかりと巻き付くため、髪の摩擦力が増し、かんざしが滑り落ちるのを防ぎます。
挿し方のポイントまとめ
| ポイント | 詳細 |
| ねじりの強度 | 髪のねじりが緩いと、かんざしを挿しても固定されずに崩れやすいです。根元からしっかりとねじるようにしましょう。 |
| 挿し込む角度 | 最後に差し込むときは、地肌に沿わせることが重要です。頭皮を傷つけないよう注意しながら、地肌をなぞるように滑らせて差し込みます。 |
| 力加減 | 髪がしっかり固定される程度の適度な力で挿しますが、かんざしを強く握りすぎたり、無理に力をかけたりすると、かんざしや髪を傷める原因になります。 |
この「絡ませて固定する」技術は、慣れるまで少し練習が必要ですが、これができると一本のかんざしで非常に美しいアップスタイルを作ることができます。
髪の量とアレンジに合わせる
着物のかんざしを選ぶとき、そして挿し方を決める上で、「髪の量」と「アレンジ」に合わせることは、全体の仕上がりや安定感を左右する重要な要素です。
- 一本軸のかんざしで髪全体をまとめるには、セミロング〜ロングヘアで、夜会巻きのように髪をねじり上げてから固定する方法が一般的です。
- ねじった髪の根元近くの毛束をすくうように挿し、倒してから地肌に沿わせて差し込みます。
- 二本軸のかんざしは、一本軸よりも安定感があるため、初心者の方やアレンジが崩れやすい方にもおすすめです。お団子やまとめ髪に差し込む使い方をします。
- かんざし一本だけでまとめるのが難しい場合は、事前にゴムやピンで固定したお団子やくるりんぱ、三つ編みなどに挿すと、より安定します。
さらに髪の長さやかたさ、アレンジに応じたかんざしの使い方を詳しく解説します。
軸の数で選ぶ(髪の量・安定感)
かんざしには主に「一本軸」と「二本軸」があり、それぞれ安定感と使い勝手が異なります。
| 種類 | 特徴 | 適した髪の量・アレンジ | ポイント |
| 一本軸 (1本ざし) | 1本の棒状で、髪を巻き付けて留めるのに使う。装飾の自由度が高い。 | 髪をねじり上げる夜会巻きなど、複雑なまとめ髪。ある程度の髪の長さと量が必要。 | 「絡ませて固定する」テクニック(てこの原理)が必須。素材は真鍮など強度の高いものがおすすめ。 |
| 二本軸 (2本ざし) | 軸が二又に分かれており、一本軸より安定感がある。初心者にも扱いやすい。 | お団子ヘアやシニヨンなど、すでにゴムやピンで土台を作ったアレンジ。髪の量が多い方。 | 崩れにくく、すでにまとめた髪に挿すだけでアクセントになる。軸の強度自体は弱めなので、力強く挿さない。 |
髪の長さ・量に合わせたアレンジと挿し方
ロングヘアの方 (胸元〜それ以上の長さ)
- アレンジ: かんざし一本での夜会巻きや、大きなシニヨン(お団子)などのアップスタイルが可能です。
- ポイント: 髪の量が多い分、一本軸でまとめる際は、しっかりと髪をねじり、深く(地肌に近いところまで)絡ませて固定することが重要です。毛先を折りたたんで、かんざしで全体を覆うように留めると、すっきりまとまります。
- 挿し方: 「絡ませて固定する」テクニックをしっかり使い、強度の高い一本軸を選びましょう。
セミロングの方 (鎖骨〜胸の長さ)
- アレンジ: 夜会巻きやハーフアップに適した長さです。すべてをアップにする場合は、毛先を隠しやすいように工夫が必要です。
- ポイント: 一本軸で全体をまとめるには適した長さですが、ゴムやピンで一度結び、その結び目付近にかんざしを挿すと、崩れにくくなります。
- 挿し方: 結び目がある場合は、そのゴムの隙間や、結び目を覆った髪の根元に二本軸のかんざしを挿すだけで簡単に固定できます。
ボブ・ショートヘアの方 (顎〜肩の長さ)
- アレンジ: 全体をまとめるのは難しいため、ハーフアップや飾りとして使うのが基本です。
- ポイント:
- ハーフアップ+かんざし: 耳上の髪をすくってハーフアップにし、くるりんぱなどで土台を作り、その結び目や中央に装飾としてかんざしを挿します。
- 飾りのみとして使用: 全体をセットした後、耳元やサイドに、アメピンなどで見えないように固定してから、かんざしを添えるように挿します。かんざし自体に固定力は期待せず、アクセサリーとして使います。
アレンジ別の挿し方とコツ
| アレンジ | 挿し方のコツ | 安定させるための工夫 |
| お団子ヘア (シニヨン) | お団子の土台となっている結び目の髪を少量すくい、その上からかんざしを挿し、最後に地肌に沿わせて差し込む。 | ゴムでしっかりお団子を作った後に挿すのが基本。二本軸が非常に安定します。 |
| 三つ編み・編み込み | 編み終わった毛先や、編み込みの途中部分など、髪がしっかりまとまっている部分に挿す。 | ゴムやピンで編み込みの形を整えてから、かんざしをアクセントとして浅めに挿すと抜けにくいです。 |
| ハーフアップ | ハーフアップで結んだ結び目や、くるりんぱでできた穴をめがけて、かんざしを斜め下向きに挿し込む。 | ゆらゆら揺れる「下がり」のついたかんざしを使うと、華やかさが増します。 |
結論
- 一本ざしでまとめ髪をする場合は、髪の量が多くても負けない強度の高いかんざしを選び、「絡ませる」テクニックで髪に摩擦をかけて固定します。
- すでにまとめた髪を飾る場合は、二本ざしや、一本ざしでも細いタイプのものを使い、装飾が見える位置にバランス良く挿すことを優先しましょう。
挿すときの注意点
着物のかんざしを美しく、そして安全に挿すための「注意点」は、特に初心者の方にとって非常に大切です。
- 力を入れすぎない:軸が折れたり曲がったりする原因になります。優しく、手の力を抜いて挿しましょう。
- 緩すぎず、きつすぎず:髪をまとめる際は、きつすぎると頭が痛くなり、緩すぎると崩れてしまいます。適度な締まり具合で調整するのが大切です。
さらに、かんざしを挿す際に気をつけるべき具体的なポイントを詳しく解説します。
力を入れすぎないこと(破損と安全性)
かんざしの保護
- 力強く挿さない: かんざしは繊細な素材(べっ甲、プラスチック、ガラスなど)で作られているものも多く、力任せに挿すと軸が折れたり、飾りが取れたり、湾曲したりする原因になります。特に一本軸のかんざしで髪をまとめる際は、力の調節が重要です。
- 力の入れ方: 挿すときは、手の力を抜き、かんざしの軸の中央よりやや上、飾りよりもやや下を持つようにすると、無理な力がかかりにくいです。
頭皮・髪の保護
- 頭皮を傷つけない: かんざしを深く差し込む際や、絡ませるためにひっくり返す際に、先端が頭皮に強く当たらないように注意しましょう。必ず頭皮をなぞるように、滑らせて挿し込みます。
- 髪を強く引っ張らない: 髪をねじったり、挿し直したりする際に、髪の毛を強く引っ張りすぎると、頭皮に負担がかかり、痛みを感じることがあります。
2. 固定の「緩すぎず、きつすぎず」の調整
緩すぎる場合
- 安定感の確認: 挿し終わった後に軽く頭を振ってみたり、鏡で確認したりして、かんざしが動かないか確認しましょう。ぐらつく場合は、「絡ませて固定する」が不十分です。
- 再固定: 一度抜き、地肌に近い部分の髪を確実にすくい取るように、もう一度挿し直します。かんざしが毛束と地肌側の髪をしっかりと噛んでいる状態を目指しましょう。
きつすぎる場合
- 頭痛の原因: 髪の根元をきつくねじりすぎたり、かんざしで頭皮を強く押さえつけたりすると、頭痛や不快感の原因になります。
- 調整方法: 髪をまとめ直すか、かんざしをわずかに引き抜き、少しだけ緩みを持たせるように調整します。見た目の美しさだけでなく、長時間着物を着ていても苦にならない快適さも重要です。
滑り止めと補助具の活用
- 滑りやすい素材: 金属やガラス製のかんざしは表面が滑りやすく、特にストレートヘアの方は抜け落ちやすいことがあります。
- 補助具の使用:
- まとめ髪の土台をヘアゴムやUピンでしっかり固定してから、かんざしを挿しましょう。
- かんざしを挿す前に、まとめたい部分の髪にワックスやヘアスプレーを軽く揉み込み、摩擦を増やしておくと滑りにくくなります。
- 二本軸の検討: 一本軸で安定しない場合は、固定力の高い二本軸のかんざしを試すか、木軸など表面がざらついた素材のかんざしを選ぶのも有効です。
まとめ
この記事では、着物姿を格上げする「かんざし(簪)の正しい挿し方と固定のコツ」を徹底解説しました。
【落ちない!】安定感のあるまとめ髪を実現する鍵は、単に髪に挿すのではなく、「かんざしを頭皮側に倒し、地肌に近い髪に絡ませる」という基本テクニックにあります。
この「絡ませて固定する」原理をマスターすれば、髪の量やアレンジに合わせて一本軸・二本軸を使い分け、崩れる心配なく美しいスタイルを長時間キープできます。
今日からご紹介したポイントを実践し、かんざしを使った粋で上品な和装ヘアアレンジを楽しんでください!
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