あなたは受け継ぐ着物をどのように活用していますか?
親や知人から着物を受け継ぐ場合がありますが、受け継いだ着物の寸法は実際にはそのまま着ることができない場合が多いです。
そこで、まず着物の寸法直しをする方法が思い浮かびます。
しかし、何も知識の無い状態で行っては後々後悔することになるかもしれません。
今回は、受け継いだ着物を後悔せずに活かすための、着物の寸法直しについてまとめてみました。
自分の着物の寸法を知る。身長を基準とした着物の寸法とは
まずは、自分の着物の寸法を知ることが大切です。
呉服店などの専門店で採寸してもらうのがよいですが、馴染みのお店が無い場合は、身長を基準とした標準的な寸法が参考になります。
因みに、最近の呉服屋の採寸は、長めの傾向にあります。
身長を基準とした女性の着物の標準寸法
160㎝の女性の着物の標準寸法
・身丈(背から)・・・4尺2寸5分(161㎝)
・袖丈・・・1尺3寸5分(51㎝)、現在は身長に関わらず1尺3寸(49.4㎝)が多いです。
・裄丈・・・1尺7寸5分(66.5㎝)、現在は長めの傾向にあります。
・前幅・・・6寸から6寸3分(23から24㎝)
・後ろ幅・・・7寸7分から8寸(29から30㎝)
・衿下(褄下)・・・2尺1寸(80㎝)
155㎝、165㎝の場合は160㎝を基準に
・身丈(背から)・・・身長と同じ寸法
・袖丈・・・±5分、現在は身長に関わらず1尺3寸(49.4㎝)が多いです。
・裄丈・・・±5分、現在は長めの傾向にあります。
・前幅・・・160㎝と同じ寸法
・後ろ幅・・・160㎝と同じ寸法
・衿下(褄下)・・・±5分
身長に関わらず、手足の長さや身幅には個人差があります。
手持ちの着物の中で、実際に着て着やすい着物の寸法を測り、身長を基準とした標準的な寸法と比べてみるのも良いと思います。
寸法の差の許容囲範を決める
自分の着物の寸法が分かったところで、自分の寸法の許容範囲もある程度知っておくことが大切です。
身長を基準とした着物の寸法は、あくまでも理想的な寸法です。
受け継ぐ着物の場合は、自分の理想の寸法には足りないことが多く、特に問題になってくるのは、身丈と裄丈になります。
私の場合は、身丈では理想の寸法よりも最大-13㎝、裄丈では-4㎝程までは許容範囲と考えています。
身丈においては、「20㎝短くても大丈夫」という方もいらっしゃるようで驚きです。
着物を着るにあたっての寸法の許容範囲は、個人で感じ方が異なると思います。
自分が妥協できる許容範囲の寸法を知っておくことは、受け継いだ着物を後悔のないように活用することに役立ちます。
着物の反物の幅や仕立上がりの身丈、内揚げの長さの確認
昔の着物の中には、反幅が35.5㎝のものがあります。
35.5㎝の反幅があれば、身長165㎝程までは十分に理想的な裄丈に仕立られます。
仕立て上がりの肩山の合口部分を触ると、おおよその縫込みの長さが分かり、何㎝裄が出せるのか分かります。
仕立て上がりの着物では、仕立ててある身丈寸法と内揚げにどれだけ生地が入っているかが重要になります。
内揚げの短い方の長さを参考に、何㎝長く出来るのか判断できます。
内揚げが5㎝の場合は、倍の10㎝身丈が出せることになります。
生地が畳まれて縫い込んであるので、倍の長さが出せることになります。
失敗しない着物の寸法直し
「思い入れのある受け継いだ着物を、着たい」
「出来るなら自分の寸法に仕立て直して綺麗に着たい」
このような思いの方は沢山いると思います。
実際、私も「母の着物を受け継いだのだから、綺麗に自分の寸法に直して着たい」と思っていました。
そこで重要なのが、本当に寸法直しが必要かということです。
寸法直しをする、着物の選び方
受け継いだ着物の枚数が多い場合は、全てを手直しするのは大変なことになります。
枚数が少ない場合でも、それなりの費用がかかります。
受け継いだ着物が、寸法直しを施すに値するのかを判断することが大切です。
お勧めの判断方法は
・着物の生地の質や加工に価値があるかないか
・個人的な思い入れがあるかないか
着物を譲り受けるときに、その着物について教えてもらうのが良いと思いますが、生地の質や加工の価値の判断できない場合は、行きつけの呉服店や信頼のできる専門家に見てもらうのが良いと思います。
受け継ぐ着物を活用するメリット
・箪笥の肥やしを減らし着物を活用する機会が増える
・譲ってくれた人が喜んでくれる
・新しく購入せずに済む
受け継ぐ着物を活用するデメリット
・コストがかかる
・コストパフォーマンスが悪い
・失敗がすることが多い
・想像していた仕上がりにならない
メリットとデメリットを比較すると、やはりデメリットのリスクの方が大きいと感じます。
実際では寸法直し以外にも、色あせや裏生地の不足などもあることから、かなりコストがかかる場合があります。
寸法の直し方の方法
着物の寸法直しにはいくつかの方法があります。
一番簡単な方法は縫い込んである生地を利用して長さを出す、寸法直しです。
身頃や袖を縦方向や橫方向に裁断し、生地を継ぎ合わせる方法もあります。
通常の方法
縫込みや内揚げを出し、部分的に寸法を直す方法です。
2か所以上に寸法直しが必要な場合は、解き+湯のし+仕立ての方が綺麗に仕上がり、価格的にもお勧めです。
一番生地に優しい方法です。
自分の理想的な寸法にならなくても、許容範囲の寸法、あるいは目一杯出せる寸法で仕立ててもらうことも選択肢のひとつです。
身頃の中継ぎ方法
身丈が足りない場合に、胴の隠れる部分の生地を切って、別の生地を継ぎ合わせる方法です。
身頃を裁断しても、身丈寸法を十分に取りたい場合はこの方法になります。
身頃の生地を切ってしまうことになり、後に羽織やコートに仕立て直すことができません。
2枚の着物を1枚に仕立てる方法
反幅が足りず裄丈が足りない場合、デザインを考えながら縦方向に生地を継ぎ合わせる方法です。
この方法は、専門家であってもかなりのセンスと経験が必要になります。
デザイン以外にも生地質の添いなども重要になってくるので、失敗するリスクが高くお勧めできません。
写真の辻が花と無地の着物をリメイクした着物はとても素敵ですが、このような完成度の高い仕上がりは、良い条件が揃わないとかなり難しいです。
寸法直しの価格の目安、相場
あくまでも平均的な価格になります。
・裄直し・・・6000円~
・身丈直し・・・1,2000円~
・胴継ぎ・・・1,6000円~
通常の寸法直しをする場合であっても、仕立筋の有無、色やけの有無、裏生地が利用可能か等別料金がかかります。
価格もお店により異なるので、必ず見積もりをたててもらいうことをお勧めします。
お店選び
お店選びはかなり重要になります。
初めて伺うお店は、出来れば避けた方が良いです。
また知っているお店であっても、全て鵜呑みにしてはいけません。
必ず見積もりを立ててもらって、出来れば何か所かに相談するのが失敗のリスクも減りよいと思います。
着物の場合、お店とのお付き合いは長くなるので、長く付き合えるお店選びが大切です。
呉服店
あれこれ勧めてくるお店や店員の方は、少し注意してください。
良心的なお店であれば、本当に必要なことを勧めてくれ、必要のないことは勧めてきません。
悉皆屋
着物通の方は、呉服店を通さず直接悉皆屋に持ち込んでいるようです。
呉服店を通すよりも、要望を伝えやすく、専門家ならではのより良いアイデアを教えていただくことができます。
お店を挟まない分、価格を抑えることができます。
近くに悉皆屋がある場合は、是非ご利用ください。
個人の和裁師
個人の和裁師の方に直接、お願いするのもよいでしょう。
最近では和裁師の方も個人的にSNSなどで情報発信をされています。
どのような経験をお持ちなのかも分かりますし、直接会うことで自分の体型を知ってもらえ、更に着やすく仕立ててもらうことができます。
悉皆屋同様に価格を抑えるこもできます。
寸法直し以外の方法
寸法を直さないで、そのままの状態で着物を着るときや、寸法を直してもらったけれども、本来の自分の着物の寸法には足りない場合に活用できます。
着付け方法
着付け方よって、着物の寸法はかなり誤魔化すことができます。
広衿の織り方
着物の衿は広衿と言って、着物を着る際には半分に織る必要があります。
この織る幅を変えて、表に出る衿の幅を広く取ります。
ほんの少しの差ですが、裄丈の長さをカバーすることができます。
衿の合わせ方
衿の合わせ方を工夫する方法は、かなり効果的です。
衣紋を抜き気味にして衿の合わせ方を緩くして、ゆったりと着付けをすることで、裄丈を誤魔化すことができます。
物理的に背面の寸法は変わりませんが、体の前面の部分の寸法を得ることができます。
腰紐の使い方
腰紐をあてる位置で、着物の身丈の足りない部分を補うことができます。
極論を言えば、腰紐が隠れるだけのおはしょり幅があれば着付けができ、周りの人に気付かれることもありません。
骨盤で腰紐を支えるので食事をしてもお腹が苦しくなく、意外と楽に過ごすことができるのでお勧めです。
おはしょりの縫い付け
事前に肩揚げの要領で、おはしょりを作り縫い付けておく方法です。
以前、母の馴染みのお店の方が、親切心から浴衣のおはしょりを縫い付けてくださったことがありました。
一見便利そうですが、実際に着つけてみると体との添いが悪く、何度直してもおかしなところに皺ができて、結局糸を取り普通に着付けをしたことがあります。
浴衣では多少着丈が短くても良いですし、どうしようもない時は思い切って、おはしょり無しの対丈で着つけてしまうのもありだと思います。
何も直さない、手を加えない
一切、直さない、手を加えない方法もあります。
自宅での家着きものに活用するか、もしくは、眺めて楽しむのも1つの選択肢だと思います。
終りに
譲り受けた着物を活用することは、とても素敵なことですよね。
私も今よりも着物を好きになった当初の方が、あれこれ着物を直したいと思い、手を加えていたような気がします。
しかし、何度か失敗を経験した上で、現在は寸法不足の許容範囲を超えた裄丈の寸法直しだけを行い、何度も着てから洗い張りと仕立てを行うことにしています。
今まで行ったことがある寸法直しは、裄出しや胴継ぎ、全体の仕立直しです。
今なら胴継ぎはどんなに進められても行いません。
着物が好きになったばかりの着物熱が高い時には、特に後悔の無いように受け継いだ着物を大切にしてほしいと思っています。
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