芭蕉布といえば、重要無形文化財保持者(人間国宝)の平良敏子さんの喜如嘉の芭蕉布が有名ですが、上布とは違った独特の質感が魅力的な芭蕉布です。
沖縄本島北部の大宜味村喜如嘉で作られている「喜如嘉の芭蕉布」が有名です。
苧績み・うーうみ(糸績み)した節が、本物の芭蕉布の証です。
芭蕉布の着物や帯の質感は麻とは違ったハリ感があり、一度触ったらその違いがすぐに分かると思います。
仕立上がったばかりの芭蕉布の着物は、触れるとひんやりと感じられます。
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芭蕉布とは
・沖縄本島北部の大宜味村喜如嘉が有名「喜如嘉の芭蕉布」
・糸芭蕉の繊維から作った糸で織った布
・沖縄の中で最古の織物
・「喜如嘉の芭蕉布保存会」が国の重要無形文化財に指定された。
・戦後、壊滅状態だった芭蕉布を平良敏子さんが復興させたことで重要無形文化財保持者に指定された。
芭蕉布の糸の作り方
糸芭蕉の原木を鎌を使って切り倒す「苧倒し(うーたおし)」の様子
・バショウ科の植物
・糸芭蕉・・・実がなるが食用には適さない(美味しくない)
(実芭蕉・・・食用のバナナ、花芭蕉・・・観賞用)
・沖縄北部の芭蕉布は「ヤンバルバサー」と呼ばれている
・芯止めをして3年かけて幹を太らせる
・葉が巻いて層になったものが幹になる
・幹の外から4種類にわけて糸をとる
・外から「ウァーハー・・・テーブルセンターや座布団」「ハナウー・・・帯地」
「ハナグー・・・着物地」「キャギ・・・芯は食べる(変色するそうです)」
・苧績み・うーうみ(糸績み)は80~90歳の女性の仕事
・高齢化により、苧績み・うーうみ(糸績み)を出来る人がいなくなってきている
・繊維が絡まないように玉状(チング)にして水に浸して苧績み・うーうみ(糸績み)をする
・口に加えて幹を割いたり苧績み・うーうみ(糸績み)をするので、無農薬で糸芭蕉を育てる
・1本が約80cmの繊維を苧績み・うーうみ(糸績み)する
・乾燥に弱い
温暖化によって糸芭蕉の繊維の質が変わってきているようです。
芭蕉の繊維を絡まらないように玉状にしたものを「チング」という。
「チング」を水に浸して芭蕉布の糸を作ることを「苧積む(うーうみ)」という。
芭蕉布の着物
・1着尺には1kgの糸が必要
・約80cmの繊維を苧績み・うーうみ(糸積み)した、1本が約5gの糸が200本以上必要
・苧績み・うーうみ(糸績み)前のチングが3万5千個~4万個必要
・縞や絣などのイメージですが、無地の芭蕉布着物は貴重なのだそうです。
煮綛芭蕉布(にーがしーばしょうふ)
・綛にしたものを染めてから煮て色止めする
・通常の芭蕉布の糸染めは浸染のみ
・質の良い糸しか煮ることができない(熱により劣化する)
・熱に耐えることができる良質の芭蕉糸のみが、煮綛芭蕉布に使われている
・王族が使用していた貴重な芭蕉布
・現在では、工芸展出品作品用に制作されているそうです。
ムカデ文様
・ムカデ模様に使われている糸は、通常の糸の2分の1の細さの糸を撚った糸である
・ムカデ
芭蕉布の着物や帯作りの工程の水洗い
芭蕉布作りの20余りある最後の工程に芭蕉布の水洗いがあります。
芭蕉布を水洗いをして干しますが、アルカリ成分のためパリパリに硬くなってしまうようです。
アルカリ成分でパリパリになった芭蕉布を、「ユナジ」という酸性の液に浸けて中和させ、もう一度水洗いして軟らかくします。
芭蕉布は原皮を炊くときもアルカリ性、最後に反物を炊くときもアルカリ性なので、「ユジナ」の酸性で中和させます。
「ユジナ」で中和させた後に、湯のみ茶碗の飲み口の部分で縦、横の布目に添ってこすり表面を平らにします。
伸子張りをせずに湯のみ茶碗を使ってこすりあげる方法は、芭蕉布特有の工程です。
このとき、苧績みしたときの糸の結び目もつぶれ、目立たなくなります。
「ユナジ」の作り方
白米2カップで御粥を作り、卵の白身100gを加え更に水10gを加えてかき混ぜる。
約1週間で発酵しヨーグルトのような香りになり酸っぱくなります。
出来上がった「ユナジ」に2時間くらい浸して水洗いします。
仕立前の芭蕉布の着物や帯の湯通し
芭蕉布の製作工程で糊は一切使用していないので仕立前の湯通しはしなくても良いのだそうですが、購入するまでに付着した汚れなどを落とす意味で湯通しをされる場合があります。
湯通しした場合は少々縮むようです。
芭蕉布の帯など湯通しせずに仕立ててその後に洗濯した場合、帯の端が波うつ場合があるようです。
芭蕉布の着物や帯を着用する季節
幹を糸にして織り上げている芭蕉布は、体との添いが悪く着付けしにくいといわれています。
体との添いが悪いということは、空気が通り涼しいということなのですが、着れば着るほどに芭蕉の繊維が軟らかくなって、しなやかになってくるそうです。
上布同様に乾燥に弱い芭蕉布は、雨に強いので梅雨の季節にも活躍してくれそうです。
芭蕉布を購入、着てみたい、着ている時、着た後のお手入れや保存方法についてまとめてみました。
芭蕉布はお洒落着だということもあるで、決まり事に縛られずに沢山楽しむのが良いと思います。
きもの
7月や8月の盛夏の薄物のきものとしての印象が強い芭蕉布の着物は、おしゃれ着としてとても贅沢な装いです。
薄物のイメージが強い芭蕉布の着物ですが、藍染めや煮綛芭蕉布のような濃い色目の場合や絣の場合は6月や9月の単衣の時期に着用しても問題なさそうです。
長襦袢の色を工夫することでも着用期間が長くなりそうです。
芭蕉布はお洒落着なので、体感温度に合わせて臨機応変に楽しみたいですね。
帯
帯は着物よりも更に長い期間活用できそうです。
単衣の季節はもちろんですが、9寸名古屋帯の場合、特に藍染めの物やコーザーなどは5月や10月に用いても大丈夫そうです。
芭蕉布の着物に合う帯
芭蕉布の着物は野性味があって力強い印象があります。
力強い芭蕉布の着物に負けないような、力のある帯を合わせてお洒落に装いたいものですが、力強い帯って具体的にどのような帯なのでしょうか?
お勧めされた帯は・・・
柳晋哉さんの生絹(すずしの)縞の名古屋帯です。
帯芯も濃い色にして芭蕉布の着物に負けないようにするのがお勧めとのことで、そのようにしていただきました。
芭蕉布の着物に芭蕉布の帯や琉球紅型の帯など、沖縄の染織でまとめたコーディネートも素敵だと思います。
芭蕉布の着物や帯の値段
着物
新古品の場合は100万円代からありそうですが、300万円代以上とかなり高額の物もあります。
一昔前の芭蕉の繊維の方が現代の芭蕉の繊維よりも良いと聞いたことがあるので新古品の方がお得のように感じます。
中古のものは30万代~ありそうですが、寸法が足りなかったりする場合が多そうです。
帯
40万~100万
中古のものでは10万代~ありそうですが、状態の確認が必要です。
芭蕉布の着物や帯のお手入れ方法
夏着物はしまう前に手入れに出すことが鉄則といわれています。
丸洗いでは汗成分の汚れが落ちないので、汗抜きとして手作業で行わなければなりません。
汗抜きと脂質汚れのみ部分的に綺麗にすることが大切です。
自分でするお手入れ方法・芭蕉布の丸洗い
自分で丸洗いする場合は上質の石鹸を用いて押し洗いします。
よく水洗いした後に布の赤み止めのために食酢または酢酸をほんの少したらし、もう一度水洗いします。
ごく薄い糊をつけ影干しして、八分乾きでとりいれ、斜めや横、縦に引っ張って、元どおりの幅と丈を出します。
最後にゴザなどにくるんで押しをして、蒸気アイロンで仕上げをします。
何年か着衣した芭蕉布は「ユナジ」に浸けて洗うと、柔らかく仕上がります。
芭蕉布には、小さな説明書のようなものがついていて、洗濯の仕方として「ユジナ」に浸けて優しく洗うと良いと書いてあるようです。
しかし、実際には説明を聞いても「ユジナ」作りや使用方法が分からない場合が多いと思います。
プロにお任せ・お手入れ方法
芭蕉布を自分でお手入れする方法として「ユジナ」の使用がありましたが、厳密にはそれだけでは駄目なのだそうです。
というか、「ユジナ」を作ることや使用するお手入れ方法は一般素人にはとてもハードルが高いです。
1番よいのは、購入したお店に相談することで、お店から喜如嘉の芭蕉布組合に繋いでくれるようです。
譲り受けた場合や購入店が無くなってしまった場合、近くに相談できそうなお店がない場合などは、喜如嘉の芭蕉布協同組合に直接連絡をとってみることも出来るようです。
芭蕉布の取り扱いに詳しいお店や悉皆に相談するのが1番良いの方法のようです。
芭蕉布の着物の皺対策
着用時の皺対策
バッグを持ったりして肘を曲げているとその部分が皺になりますが、そんな時はトイレなどで手で水をつけたり、携帯用の小さなスプレーで湿らせると皺がとれます。
絹のように水が落ちてシミになることはないので安心です。
着用後の皺対策
着用した後の着物や帯の着じわは、吊り下げて湿らす程度に霧吹きをして、手で丁寧に皺を伸ばして押しをすると元にもどります。
芭蕉布の着物や帯の保管方法
芭蕉布の繊維の性質
正しいケアをするためには繊維の性質を知る事が大事です。
1番のポイントは芭蕉布は植物繊維なので乾燥を嫌うということです。
上布などにも同じことがいえますが、機織りや仕立時には乾燥により糸が切れるのを避けるために加湿器などで湿度を上げて作業をされるようです。
絹の着物と同じように乾燥剤を入れて保存した場合、縫い目のところから繊維が切れる恐れがあります。
乾燥し過ぎると繊維が切れやすくなり、破損しやすくなります。
保存状態が良好な芭蕉布は、肌触りがひんやりとして肌にまとわりつかないので、心地よく着用することが出来ます。
影干しなどをしたりして空気にふれさせたり、1番いいのは着ることで体からでる水分で潤わせ、芭蕉布の繊維もしなやかに体に馴染むようになるようです。
自宅での保管方法
芭蕉布の着物や帯を保管する時は、乾燥材や樟脳は使用せず、食害の被害にあわないようにウール類と一緒に保管しない事が大切です。
なるべく湿度が高い箪笥の下段に綿布の風呂敷などに包んで保管するのもよいようです。
自分でしたお手入れ、失敗したかな?
袖部分ですが、少しうねうねしているような?
「芭蕉布を着用する前日に、水スプレーをして水分を与えておくと良い」「結構、びっくりするくらい水スプレーをした方が着やすい」と教えていただきました。
なので、着用前日に思いっきり水スプレーをしたのですが、なんだか波打っているような?パリパリしたような感じになってしまいました。
初めて手にしたときに感じた、芭蕉布のひんやり感も少なくなっているし・・・
この後に、芭蕉布愛好家の方の「芭蕉布も水に濡れると縮みます」ということを知り残念な気持ちになりましたが、しょうがないので芭蕉布の繊維が軟らかくなって体に馴染むよう、よく着たいと思います。
喜如嘉の芭蕉布の裏話
「芭蕉布の着物」の部分でもいいましたが、無地の芭蕉布着物は貴重なのだそうです。
芭蕉布の糸の色目は薄いものから濃いめのものと様々あるのですが、その糸の色目を揃える、同じ色目に糸を集めるのが大変といわれています。
また、無地の場合は織むらが目立ちやすいため、織の工程でも気を使うのだそうです。
そして、もう一つの裏話ですが・・・
無地着物や帯地には、無地のままでの利用ではなく紅型などの染めを施すことがありますが、そうすると無地生地を制作した作り手の名は、表に出てこないということになります。
大変な労力で作り上げたのに、完全に裏方になるのは悲しすぎますね。
終わりに
芭蕉布の着物や帯は独特の張りあり強い印象がある布です。
特に芭蕉布の帯は上布などの繊細な繊維との着用には注意が必要ともいわれています。
強い印象のある芭蕉布ですが、ケアを怠ったり自己流のケア、間違った保管をすると芭蕉布の良さが無くなってしまい残念なことになってしまいます。
1番安心なお手入れ方法は、やはりプロに任せるという結果になりました。
極軽いシミや汗取りなどは自分で対応するとして、もう少し体に馴染むよう着用を重ねて、喜如嘉の芭蕉布協同組合か芭蕉布作家さんにお手入れをお願いしたいと思います。
芭蕉布のコーディネート
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