日本の三大上布といえば「宮古上布」「越後上布」「近江上布」があげられます。
沖縄県宮古島で生産されている、国の重要無形文化財指定の「宮古上布」の着物や帯は、夏の最高品質の上布といえます。
一番上等な布の意味を持つ上布ですが、今回は「宮古上布」の歴史や特徴、証紙、見分け方、お手入れ方法などをまとめてみました。
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宮古上布とは?
宮古上布は、北の「越後上布」に南の「宮古上布」と言われているように、最高級品の2大上布のひとつです。
上布(じょうふ)・中布(ちゅうふ)・下布(かふ)とある中で一番上等な布、着物や帯を上布といいます。
「砧打ち」による独特な光沢が美しい宮古上布の着物は、つややかで繊細な地風の麻織物です。
宮古上布の歴史
16世紀に琉球王国に献上された、大名縞の紺上布である「綾錆布」が「宮古上布」の始まりといわれています。
17世紀に琉球王朝が島津藩の支配下となり、王朝の貢納布制度(年貢布制度、人頭税)により、宮古島では「人頭税」として成人女性に染織物の納付が義務付けされました。
この貢納布制度(年貢布制度・人頭税)は役人の厳しい監視のもとで作られることで技術が発達し、一層美しい上布が作られようになりました。
島単位の住民の人数で年貢布の量が決められていて、その基準となるの「人頭税石」でした。
140㎝の基準の「人頭税石」よりも身長が大きければ、年貢を納める頭数に入ることになっていたそうです。
働けない老人も140㎝の基準を満たせば年貢を課せられることになるので、島としては少しでも負担を減らすために、「人減らし」を行ったそうです。
この「人減らし」は老人だけが対象ではなく、若い層、妊婦も含まれていたということなので驚きました。
この年貢布制度による税の締め付けは、耐え難いもだったそうで、明治政府に訴えるまでの明治36年まで続いていましたが、明治後期にようやく「人頭税」が廃止され自由に生産と販売ができるようになりました。
宮古上布の着物の中でも琉球藍で染めた紺上布は琉球から薩摩藩に収められ、「薩摩上布」として人気を博しました。
大正時代に「薩摩上布」から「宮古上布」に改称されました。
大正初期に大島紬で用いる「締機」が導入されてからは、紺地白絣がさらに細かくなり、夏の高級織物として高く評価されました。
現在では「締機」と共に「手括りでの絣」を作る技術も伝承されています。
・1978年に製造技術が国の重要無形文化財に指定される。
・2003年に「苧麻糸手績み」が国の選定保存技術に選定される。
宮古上布の着物の特徴
・薄手の地風に蝋引きしたような光沢が大きな特徴。
・独特の光沢は、サツマイモの澱粉糊で布の表面を糊付けし、仕上げの「砧打ち」によるもの。
・経緯糸ともに手績みの苧麻糸を使い植物染料で染め、高機で織りあげる。
・絣糸の作り方は、「締機」による織締めと「手括り」の2種類がある。
・苧麻栽培から仕上げまで、全工程を宮古島で行っている。
苧麻の手積み糸を用いて植物染料で絣糸を染め手織りをして、仕上げに木槌で布をたたく「砧打ち」をしたものをいいます。
大きく分けて 5 つの行程 に分業されていて、各工程にそれぞれ職人がいます。
「糸績み」「絣締め」「染色」「織り」「砧打ち」の工程に分業されています。
上布というと、麻織物のことを示すと思っていましたが、もともとはそうではないそうです。
琉球王朝時代に琉球で織られた織物の品質を素材に関係なく、上、中、下の3段階に分けており、上布(じょうふ)、中布(ちゅうふ)、下布(かふ)と呼んでいたそうです。
経糸が品質の基準になっていて、反物巾に対して、上布は1200本、中布は1000本、下布は800本の経糸が用いられていました。
本数が多いほど細くて繊細な糸を用いるので、薄くてしなやか、軽い織物ができることになります。
苧麻は長さ40㎝から60㎝ほどの長さしかないので、細かく裂いた苧麻を撚りながら紡いで1本の糸にしていきます。
その撚り方が面白いのですが、芭蕉布のように結ぶのではなく、先を揃えて撚りあわせ、開いて1本にした状態で、更に重なり部分を撚りあわせていくのだそうです。
なので宮古上布の着物や帯には芭蕉布のような結び目による節がありません。
この「糸績み」は高度な技術が必要で、出来る人がいなくなってきているのだそうです。
また、宮古上布の着物といえば、あの独特の光沢感が有名ですよね。
最後の「砧打ち」により、蝋を引いたような独特の光沢感と軽くひんやりとした地風が完成します。
反物の宮古上布の着物を初めて見たときは、蝋引きの光沢により、一見、布ではなく紙のように感じたのを覚えています。
この「砧打ち」の光沢は、着用と共に徐々になくなっていくのですが、再び「砧打ち」をすることで光沢は甦ります。
しかし、この「砧打ち」を出来る人がいなくなっているということです。
宮古上布の着物の生産量
現在、宮古上布を織っている方は10人ほどしかいらっしゃらないそうです。
年間生産量は7反です。
「糸績み」をできる人が少ないため、必然的に着物の着尺や帯の生産量は減少しています。
制作技術の指定要件
「文部科学大臣が指定する重要無形文化財の制作技術の指定要件」と「経済産業大臣が指定する伝統的工芸品の制作技術の指定要件」があります。
重要無形文化財の制作技術の指定要件
・すべて苧麻を手紡ぎした糸を使用する。
・絣糸は、伝統的な「手結」または「手括り」によるもの。(伝統的工芸品の指定要件では「締機」による絣糸作りも含まれる)
・純正植物染による染色。
・手織り(越後上布はいざり機による織り)
・仕上げ加工は木槌による手打ちを行い、使用する糊は天然の道具を用いて調整する。
伝統的工芸品の制作技術の指定要件
・手績みの苧麻糸を使用する。
・絣糸は「締機」または「手括り」によるもの。
・植物性染料による染色。
・「先染めの平織」と「手投杼」による打ち込みにより制作された物。
4種類の宮古上布の着物や帯
・「重要無形文化財指定の宮古上布」・・・経緯糸ともに手績みの苧麻糸を使用。
・「宮古苧麻織」・・・経糸にラミー糸、緯糸に手績み糸を使用。
・「宮古麻織」・・・経緯糸ともにラミー糸を使用。
・「宮古織」・・・経糸に木綿、緯糸にラミー糸を使用。
宮古上布の着物の見分け方
・「耳じるし」がある・・・絣の模様が合うように筬通しの幅で付けられた印(弓浜絣にもあります)
・古い能登上布には、宮古上布の砧打ちの光沢に真似た加工が施されている製品があるので、リサイクル品などでは「耳じるし」の有無を確認したほうがよさそうです。
重要無形文化財指定の宮古上布の着物や帯の証紙
重要無形文化財指定の宮古上布の証紙
宮古織物事業協同組合による宮古上布の検査項目に合格した証しの証紙です。
「宮古苧麻織物」「宮古麻織」「宮古織」の証紙
宮古織物事業協同組合による宮古織物検査項目基準に合格した証の証紙です。
草木染の宮古上布に貼られる証紙
宮古織物事業協同組合による草木染の検査項目基準に合格した証の証紙です。
*重要無形文化財の指定条件で作られた製品か、絣糸の制作方法については、証紙では確認できません。
宮古上布の着物や帯の作家
宮古上布といえば新里玲子さんが有名ですね!
新里玲子さんの薄い色目の無地の着尺の写真を見て、いつもうっとりしながら溜息をついています。
「越後上布」同様に高級麻織物ですね~。
宮古上布の着物のお手入れ方法
麻素材なので自宅で水洗いができます。
・浴槽に水をたっぷりと溜めて押し洗い(こすらないように注意)する。
・洗剤を用いる場合は、弱アルカリ性の洗剤を薄く使用する。
・絞らずにバスタオルなどで水気を吸い取る。
・水が滴り落ちる状態で、着物ハンガーに通し風通しの良い日陰で、影干しする。
お店に依頼するときは、汗などの水溶性の汚れは丸洗い(ドライ洗い)では落ちないので、汗取りをお願いしたほうがよさそうです。
藍染の場合、ギョっとするくらい藍の染料が出てくるそうですが、大丈夫だそうです。
終わりに
いつかは欲しい宮古上布の着物や帯・・・
上布の中でも「宮古上布」「越後上布」は生産数も少なく貴重で高価なことから夏の最高級品の着物や帯として扱われる、憧れの上布です。
欲しいと思った時、宮古上布の歴史や特徴、見分け方、証紙の種類などを知ることで、より良い着物や帯選びが出来るかもしれません。
逆をいえば、何も知らないと高いお買いもの(勉強代)になるかも・・・
繊細で美しい宮古上布は、見ているだけでも心がわくわくしてきます。
着物が好きになると、気になる染織がどのような物か知りたくなります。
着物を勉強する上で、歴史的背景を含めて染織をとらえることも大切なことだと感じました。
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