上布というと、細い苧麻の繊維で織り上げた麻織物を意味します。
かつて琉球王朝時代に琉球で織られた織物の品質を、素材に関係なく、上、中、下の3段階に分けており、上布(じょうふ)、中布(ちゅうふ)、下布(かふ)と呼んでいました。
上等の布の意味を持つ「上布」という言葉に特別感を感じるのか?
薄くて軽くしなやか、肌に心地の良いシャリ感が特別感を感じるのか?
着物好き歴が長くなればなるほど、夏の特別な織物である「上布」が気になる存在になってきます。
今回は宮古上布と越後上布の材料となる苧麻・糸作り・糸績(う)みの違いについて学んだことをまとめてみたいと思います。
麻の歴史
庶民は江戸時代に木綿栽培が盛んになるまでは、木や草の繊維を績(う)んで麻や楮、太布(たふ)、白妙などの自然布を季節を問わず身に纏っていました。
麻は縄文時代から人々の暮らしの中に存在していました。
弥生時代にはすでに養蚕があり、5世紀になると大陸からの高度な織物技術を取り入れ絹も存在していたが、日本人の最も身近に存在したのは麻でした。
庶民が工夫して身につけていた布を、現代人は夏の贅沢なものとして愛用しています。
宮古上布の糸作り・糸績み方法
丸く囲んだ部分が宮古上布のネップです。
細い繊維を績(う)んである部分ですが、少し?かなり?分かりにくいです・・・
宮古上布の苧麻
宮古上布の材料である苧麻は宮古島内で栽培されています。
苧麻は35日~40日ほどで1・5~2mに成長し、気候条件がよければ年に4~5回収穫ができます。
春に刈り取った「うるずん苧(ぶー)」が一番上質の苧麻がとれます。
宮古上布の糸作り
・1・5~2m近くに伸びた苧麻を刈り取り、芯と表皮を剥ぎとる。
・肉質をこそげ落とし、表皮の内側にある繊維を取り出す。(苧引き・おびき)
・苧引きした苧麻は「元苧」と呼ばれ、室内で陰干し乾燥される。(元苧干し)
・繊維を爪で細かく裂いて、結び目を作らずに絡めて糸を績んでいく。
・糸を濡らしながら撚りをかけて糸を強くする。
越後上布と同様に青白いものが上質といわれています。
宮古上布の糸績み方法
宮古上布の糸は、糸を結ばずに絡めて績んでいきます。
紙縒りのように糸と糸の端をまっすぐに絡ませます。
糸の先を反対側に捻じったりしません。
経糸の場合は強度を持たせるために、髪の太さの1/2の太さの糸同士を撚り合わせて、髪の毛の太さと同じ1本の糸を作ります。
髪の太さの1/2の太さの糸を2本使って1本の糸を績んでいくので、作業量が2倍以上になってしまいます。
越後上布の糸作り・糸績み方法
ネップや微妙な糸の太さの違いにより、苧麻を使った手織りならではの味わいが感じられます。
越後上布の苧麻
越後上布の材料になる苧麻は、隣県の福島県昭和村で栽培されています。
5月20日頃に「焼畑」を行った後に生えてきた芽を育て7月~8月頃に刈り取ります。
刈り取った苧麻から繊維を取り出して「青苧(あおそ)」、新潟県魚沼地方に送ります。
越後上布の糸作り
越後上布の糸作りは「苧績み(おうみ)」と呼ばれています。
越後上布で使われる糸は、苧麻栽培から青苧作りは福島県昭和村で行われ、糸績みは魚沼地方で行われています。
苧麻とはイラクサ科の多年草で上質の麻のことをいい、別名は「からむし」です。
福島県昭和村での作業
・2mほどに育った苧麻を刈り取る。
・繊維になる皮と不要な芯に分ける。
・木を舟型にくり抜いた「苧舟」と金具を使って皮の不要な肉質部分を取り除き「青苧(あおそ)」を取り出す。
・「青苧(あおそ)」を陰干しして乾燥させてから、魚沼地方に出荷する。
透き通る青白い色の「青苧(あおそ)」が上質だといわれています。
魚沼地方での作業
・青苧(あおそ)を爪先で粗く裂き、それをさらに細かく裂いて髪の毛ほどの細さにする。
・糸の先を撚りあわせて、均一の太さにつなぐ。
・糸を強くするために、糸に撚りをかける。
糸績みは主に雪の湿気にある冬に行われるが、近年では加湿器を使用して通年行うこともある。
越後上布の糸績み方法
越後上布は、糸を結ばずに絡めて績んでいきます。
絡めた糸を片方に寄せて績む方法が、特徴になります。
主に雪の湿気にある冬に行われるが、近年では加湿器を使用して通年行うこともあります。
違いのまとめ
宮古上布
・宮古島内で糸績み技術者が苧麻栽培から糸績みを一貫して作業を手掛けている。
・苧麻の不要部分を除いたものを「元苧」という。
・糸績みの方法・・・糸を絡めて捻じらずに、更に1/2の太さの糸を撚りあわせる。作業量が2倍以上になる。
越後上布
・苧麻作りと糸績みを行う地方が分かれて分業されている。
・苧麻の不要部分を除いたものを「青苧(あおそ)」という。
・糸績みの方法・・・糸を絡めて片方に寄せて撚りあわせる糸を絡めて開いた状態にして撚りあわせる。
終わりに
越後上布の絡めた糸を片方に寄せて撚りあわせる糸績みの方法の方が、ネップが目立つような感じがしますが、実際の生地でも、越後上布のネップが目立つように感じました。
ネップの大きさに注目して、宮古上布と越後上布を見比べるのも面白いポイントだと思います。
苧麻(ちょま)・青苧(あおそ)・苧(お)引き・苧(う)・苧(ぶー)など様々な呼び方で用いられているのも面白いですね!
素敵な夏きもの!無理をせず、夕暮れや夜のお出掛けに取り入れるなどして、楽しめることができたら良いですね。
この記事を読んだ方は、次にこちらの記事も読まれています。