汗のケア、特に着物の場合は本当に気を使いますよね。汗は水溶性の汚れなので、通常のドライクリーニング(丸洗い)だけでは落ちにくく、放置すると黄ばみやカビの原因になってしまう厄介な汚れです。
汗のケアに関する悩み、解決策をいくつかご紹介します。
着物の汗ケアに関するお悩みと対策は、主に以下のようなものがあります。
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季節やシーンの限定
汗をかきやすい夏場や、熱気のある場所での着用をためらってしまうことがあります。
着物の汗が原因で、着物の着用シーンや季節が限定されるというお悩みは、着物愛好家の間でよく聞かれます。その理由と具体的な対策について、詳しくご説明します。
季節の限定
夏場
- 暑さと湿気: 日本の夏は高温多湿なため、着物のように体を覆う面積が大きいと、どうしても体温がこもりやすくなります。その結果、大量の汗をかき、着物が汗でびっしょりになってしまうことが大きな懸念点です。
- 汗ジミ・黄ばみ: 大量の汗は、着物への汗ジミや黄ばみのリスクを格段に高めます。特に正絹の着物の場合、汗が染み込むことで輪ジミになったり、時間が経ってから黄ばみとして浮き出てきたりする可能性が高いため、着用をためらってしまいがちです。
- ニオイ: 汗をかいたまま放置すると、雑菌が繁殖し、ニオイが着物にこびりついてしまうことがあります。
【対策】
- 夏物素材の活用: 絽や紗、麻といった通気性の高い夏物素材の着物や帯、長襦袢を選ぶことで、涼しく快適に過ごせます。
- 汗対策用インナー: 汗取り機能のある肌着や、吸水性に優れた綿や麻の肌着を着ることで、着物への汗の付着を大幅に減らすことができます。
- 小物での工夫: 通気性の良いメッシュ素材の帯板や、ヘチマ・麻の帯枕を使用することも効果的です。
冬場
- 暖房の効いた室内: 冬は屋外が寒いものの、建物の中は暖房が効いていて暑くなることが多いため、着込んだ着物の中は意外と汗をかきやすい環境になります。
- 着込むことによる発汗: 寒さ対策として、中にたくさん着込んだり、厚手の羽織などを羽織ったりすると、移動中や室内で汗をかき、それが冷えて体調を崩す原因にもなりかねません。
【対策】
- 温度調節: 羽織やショールなどをうまく活用し、室内では脱ぐなどしてこまめに温度調節をすることが大切です。
- 汗取り機能のあるインナー: 冬でも汗をかくことを前提に、吸湿・速乾性のあるインナーを着ることで、汗冷えや着物への汗ジミを防げます。
シーンの限定
動きの多いシーン
- イベントや観光: 着物で歩き回る観光や、立食パーティーなど、動きが多いシーンでは汗をかきやすくなります。
- 着付け: 着付けの段階から汗をかいてしまうこともあり、着る前から汗ケアが求められます。
【対策】
- 汗対策を万全に: 汗取り機能のあるインナーや、吸水性の高い補正用のタオルなどを活用し、着付けの段階から汗対策をしっかり行うことが重要です。
食事や飲酒のシーン
- 緊張や熱気: 食事の席や居酒屋などの熱気のある場所では、精神的な汗をかきやすくなります。また、辛いものを食べたり、お酒を飲んだりすることでも発汗量が増えます。
- ニオイの吸着: 焼肉や鍋料理など、ニオイの強い食事は、着物にニオイが染みつく原因にもなります。
【対策】
- アフターケアを徹底: 帰宅後すぐに陰干しを行い、風通しを良くしてニオイや湿気を飛ばすことが大切です。
- 専門家への相談: ニオイや汚れが気になる場合は、早めに専門のお手入れ、クリーニング店に相談しましょう。
これらのことから、着物を快適に着るためには、季節やシーンに合わせた適切な素材選びと、事前の汗対策、そして着用後の丁寧なケアが不可欠となります。
汗ジミ、黄ばみ
汗に含まれる成分が、時間が経つにつれて繊維を酸化させ、黄ばみやシミとして浮き出てくることがあります。特に、着た直後には気づきにくいことが多いです。
保管状態によっては「丸洗いしたのに黄ばみが出た」なんてことにもなりかねません。
汗ジミや汗による黄ばみ対策として、着用時に着物に汗がなるべくつかないようにする工夫、着用後のお手入れに関する対策があります。
着用時の汗移りの軽減
- 吸湿性の良い肌着を選ぶ:
- 肌着は重要です。汗をかいてもベタつきにくい素材や、通気性の良いものを選ぶと、着物への汗写りを軽減することが出来ます。
- 補正具の素材を見直す:
- 補正用のタオルやパッドも、汗を吸いやすい綿素材のものを選ぶと良いでしょう。夏場はガーゼや麻素材の補正具も快適です。
- 夏場は涼しい素材を選ぶ:
- 夏場に着物を着る機会が多いのであれば、麻や綿絽、綿麻などの涼しい素材の着物や長襦袢を積極的に取り入れると、体感温度が下がり、汗をかきにくくなります。
- 汗取り肌着の活用:
- 着物の下に着用する肌着は、汗を吸い取る重要な役割を担っています。汗をしっかり吸い取る素材(綿や麻など)でできた肌着を選び、こまめに洗濯しましょう。
- 最近では、脇汗パッド付きの肌着や、吸湿速乾性に優れた機能性素材の肌着も多く出ています。これらを活用すると、着物本体に汗が染み込むのを防ぎやすくなります。
着用後のお手入れ
- 着用後の徹底した陰干し:
- 着物を脱いだら、すぐに着物ハンガーにかけて、風通しの良い場所で陰干しをします。最低でも半日、できれば一晩干して、汗や湿気をしっかり飛ばすことが重要です。直射日光は厳禁です。
- 特に汗をかきやすい襟元、脇、背中、帯で隠れる腰回りなどは念入りに風に当てましょう。
- 汗抜きの活用:
- 通常の丸洗いでは落ちにくい汗汚れには、別途「汗抜き」を依頼するのが有効です。これは水溶性の汚れを専門的に落とす処理で、汗ジミや黄ばみの予防になります。
- 特に汗をたくさんかいた時や、シーズンオフで長期間保管する前には、汗抜きを依頼することをおすすめします。
素材への影響
絹は水に弱く、汗が染み込むと風合いが変わったり、光沢が失われたりすることがあります。また、汗によって縮みや型崩れが起こる可能性もあります。
着物の素材が汗ケアに与える影響について、詳しく解説します。
絹(正絹)
- 特徴: 光沢があり、なめらかで美しい風合いが魅力ですが、非常にデリケートな素材です。
- 汗への影響: 汗は水と塩分、皮脂などの複合的な汚れです。絹は水に弱いため、汗が染み込むと輪ジミになりやすく、風合いが損なわれることがあります。また、汗に含まれる成分が化学反応を起こし、時間が経つと黄ばみとして定着してしまいます。この黄ばみは、通常のクリーニングでは落ちにくく、特殊なしみ抜きが必要になることが多いです。
綿・麻
- 特徴: 吸湿性が高く、通気性に優れているため、夏物の着物によく使われます。
- 汗への影響: 汗をよく吸い取るため、べたつきにくく快適ですが、汗ジミが目立ちやすいことがあります。特に、汗をかいたまま放置すると、カビやニオイの原因になることもあります。しかし、自宅で手洗いできるものが多く、比較的お手入れがしやすいのが利点です。
ポリエステル
- 特徴: 丈夫でシワになりにくく、自宅で洗濯できるものが多いため、普段着や練習用によく用いられます。
- 汗への影響: 吸湿性は低いですが、速乾性があります。汗をかいてもべたつかず、すぐに乾くため比較的快適です。ただし、ニオイがこもりやすいというデメリットもあります。洗濯が可能なので、ニオイが気になったらすぐに洗うことで清潔に保てます。
これらの素材の特性を理解し、着用するシーンや季節に合わせて適切な素材を選ぶこと、そして着用後のケアを丁寧に行うことが、着物を長く美しく保つための鍵となります。
臭いの染みつき
汗をかいた後、適切なケアをしないと、汗のニオイが着物に染みついてしまうことがあります。
着物の汗のニオイについて、深く掘り下げてご説明します。
汗のニオイの発生メカニズム
汗そのものはほぼ無臭ですが、ニオイの主な原因は以下の通りです。
- 雑菌の繁殖: 汗に含まれる皮脂やタンパク質、ミネラルなどの成分が、着物の繊維に付着します。これらの成分をエサにして雑菌が繁殖する際に、不快なニオイが発生します。
- 酸化によるニオイ: 汗の成分が時間の経過とともに酸化することで、独特のニオイに変化することがあります。これが、着用直後は気づかないのに、後になってニオイがしてくる理由の一つです。
- カビ: 湿気を含んだままの着物を保管すると、カビが発生します。カビ自体が発するニオイや、カビが増殖する過程で発生するニオイが、着物の「カビ臭さ」の原因となります。
ニオイへの具体的な対策と注意点
1. 自宅でできる応急処置と予防
ニオイを定着させないためには、着用後の速やかなケアが非常に重要です。
- 陰干し: 着用後、風通しの良い日陰で着物ハンガーにかけて、数時間~数日間陰干しをします。直射日光は変色や生地の劣化の原因になるため絶対に避けましょう。扇風機やサーキュレーターの冷風を当てるのも効果的です。
- スチームアイロン: スチームを生地から少し浮かせて当てることで、ニオイの分子を揮発させる効果が期待できます。ただし、金糸や銀糸、刺繍などの装飾部分には当てないように注意が必要です。
- たとう紙の交換: 着物を包むたとう紙は、湿気を吸う役割がありますが、古くなるとその効果が薄れ、かえってニオイや湿気の原因になることがあります。定期的に新しいものに交換しましょう。
2. 絶対にやってはいけないこと
- 消臭スプレーの直接噴射: 市販の消臭スプレー(ファブリーズなど)は、着物の素材によってはシミや変色の原因になるため、直接スプレーするのは厳禁です。
- 香水や芳香剤: ニオイをごまかそうと香水や香りの強い芳香剤を使うと、シミやニオイが混ざり、かえって不快なニオイになることがあります。
3. 専門家への相談
自宅でのケアでニオイが取れない場合や、カビが発生してしまった場合は、着物専門のクリーニング店に相談しましょう。
- 汗抜き: 汗に含まれる水溶性の汚れを、水を使って部分的に、または全体的に取り除く専門的なケアです。
- 洗い張り: 着物をいったんほどいて反物の状態に戻し、水洗いをする最も本格的なお手入れ、クリーニング方法です。ニオイの元となる汚れを根本から取り除くことができるため、特にニオイがひどい場合や、長年しまいっぱなしだった着物などに効果的です。
着物を長く大切にするためには、日々の着用後のケアと、必要に応じた専門家への相談を組み合わせることが大切です。
自宅でのお手入れの難しさ
自宅で汗ケアをしようにも、正しい方法がわからず、かえって着物を傷めてしまうのではないかという不安があります。
着物の汗の自宅でのお手入れが難しいとされる理由を、詳しくご説明します。
素材のデリケートさ
- 水に弱い絹: 多くの着物に使われている正絹(シルク)は、水に非常に弱い素材です。汗をかいた部分に水滴がついたり、湿らせたタオルで強くこすったりすると、その部分の繊維が収縮してしまい、「水シミ」と呼ばれる輪ジミができてしまいます。これは、乾いても元に戻らず、光の加減で目立つようになるため、素人が対処するのは非常に困難です。
- 色落ち・色にじみのリスク: 染料の定着が弱い着物の場合、水に触れることで染料がにじみ、色落ちや変色が起きる可能性があります。特に、濃い色と薄い色が隣接している柄などでは、細心の注意が必要です。
汚れの見極めの難しさ
- 乾くと見えなくなる汗の汚れ: 汗は乾くと見えにくくなるため、どの部分にどの程度汗がついているのかを正確に判断することが難しいです。特に、背中や脇、帯の下など、自分では見えにくい場所の汗汚れは見落としがちです。
- 将来の黄ばみの予兆: 汗に含まれる成分が、時間が経つと黄ばみやシミとして浮き出てきます。着用直後は無色透明なため、素人には将来の黄ばみの原因となる汗の汚れを見抜くことはほぼ不可能です。
不適切な処理によるダメージ
- こすることによる繊維の損傷: シミを取ろうとしてタオルなどで強くこすると、生地の繊維が毛羽立ったり、色落ちしたりする原因になります。
- 不適切な洗剤の使用: 洋服用の洗剤や漂白剤、重曹などを安易に使用すると、着物の繊細な素材を傷めたり、変色させたりするリスクがあります。
- アイロンのかけ方: スチームを当てすぎたり、生地に直接アイロンを当てたりすると、熱で生地が傷んだり、テカリが出たりすることがあります。
専門的な知識と技術の必要性
- 着物の構造: 着物は表地だけでなく、裏地や衿芯など複数の素材が組み合わさってできています。これらの素材の特性を理解し、それぞれに合ったお手入れをしなければ、型崩れや縮みの原因になります。
- 洗い張りや汗抜きの技術: 悉皆などの専門のお手入れ、クリーニング店では、「洗い張り」や「汗抜き」といった、着物専用の高度な技術を持っています。これらの技術は、単に汚れを落とすだけでなく、着物の風合いを保ち、長く着られるようにするためのものです。自宅でこれらの作業を再現することは、ほぼ不可能です。
以上の理由から、着物の汗ケアは、特に正絹の着物や高価な着物の場合、無理に自宅で対処しようとせず、専門のクリーニング店に相談することが最も安全で確実な方法と言えます。
クリーニングのコスト
着物のクリーニングは専門的な技術が必要なため、一般的な衣類よりも高額になる傾向があります。汗をかくたびに専門のクリーニングに出すのは経済的な負担が大きいです。
費用を抑えつつケアする方法
- 自宅で洗えるものを増やす:
- ポリエステル製の着物や長襦袢、浴衣などは自宅で洗濯できるものがほとんどです。これらを着用場面によって活用すれば、クリーニング費用を大幅に削減できます。
- 肌着や足袋、半衿(ポリエステルのもの)なども自宅でこまめに洗うことで、清潔に保てます。
- 汗抜きは必要な時に絞る:
- 毎回汗抜きを依頼するのは費用がかさみます。汗をかいた程度や着物の種類によって、丸洗いだけで済ませるか、汗抜きも依頼するかを判断しましょう。特に、一度しか着ていない、短時間の着用で汗をあまりかいていない場合は、しっかり陰干しするだけでも十分なこともあります。
- セルフケアのスキルアップ:
- 簡単なシミ抜きや、着物のたたみ方、保管方法などを学ぶことで、プロに依頼する頻度を減らすことができます。
汗のケアは、着物を快適に、そして長く美しく保つ上で非常に大切です。ご自身の着用頻度や着物の種類に合わせて、これらの方法を組み合わせてみてください。
着物の汗ケアのまとめ
着物の汗ケアの悩みを解決するためには
- 汗取り肌着の活用
- 着用後の適切な風通し
- 洗える素材の活用
- 早めの専門家への相談
が大切になります。
自分で出来るお手入れをすぐに行い、悉皆専門家、着物クリーニングにしっかりと任せることで、大切な着物を長く愛用することが出来ます。
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