「黄八丈めゆ工房」の山下家の黄八丈の着物とは 

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黄八丈といえば、何枚も所有している着物好きな方も多いと思います。

特別きものが好きでなくても、格子の黄八丈に黒繻子の掛け衿の着物姿を思い浮かべるかもしれません。

世間に広く知られている黄八丈ですが、黄八丈の中でも「黄八丈めゆ工房」の山下家の黄八丈は別格の存在で、使われている糸や染などは「黄八丈めゆ工房」の特別な物です。

 

今回は、着物好きの垂涎の存在である「黄八丈めゆ工房」の黄八丈、山下め由氏、山下八百子氏、山下芙美子氏の作る黄八丈についてまとめてみました。

 

黄染めや樺染め、黒染めの糸を使った山下八百子氏の黄八丈の着物は、見るたびにときめく重厚感や光沢感が何とも言えません。

「黄八丈めゆ工房」の山下八百子の黄八丈の着物

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黄八丈とは

黄八丈とは、伊豆諸島の八丈島で古くから織られてきた先染紬織の平織や綾織の絹織物の総称です。

用いた色によって白八丈、鳶八丈、黒八丈と呼び、八丈刈安(コブナグサ)で鮮黄色に染めた糸が主体なので黄八丈という名が総称になっています。

八丈島に自生する植物染料で染められた艶やかで深みのある色や、江戸好みの縞や格子柄が特徴の絹織物で、その独特の優雅さや光沢は、3代に渡って色褪せないといわれており、卓越した染色技術が特徴です。

黄八丈が制作されている八丈島

東京から南へ約300㎞に位置する太平洋上の、1年を通して温暖な気候の自然豊かな八丈島で黄八丈が制作されています。

八丈島で織られている黄色い着物だから黄八丈と呼ぶのではなく、八丈絹を生産する島だから八丈島と呼ばれるようになりました。

八丈島の名前の由来の八丈絹とは

八丈絹とは、古くは平安時代から献上品として納められていた絹織物です。

江戸時代では、反物を織る長さは1疋(いっぴき)が2反分となっていて、曲尺(1尺は2.4㎝)で八丈の長さだったことに由来します。

現在の1反は鯨尺(1尺は37.88㎝)で3丈の長さで、色無地などの共八卦の付いたものは4丈になっています。

因みに現在では、足袋の寸法に限り曲尺を使用しています。

黄八丈の歴史

八丈島の養蚕の起源は古く、秦の始皇帝の時代に蓬莱山を目指した人々がこの島に流れ着いたときに伝えられたといわれています。

江戸時代には、お米の採れない八丈島の年貢の代わりに貢納布として幕府に納められ、江戸時代に始めには下賜された品物として、大奥などの御殿女中や大名家専用の絹織物として扱われていました。

江戸後期になって一般庶民に着用が許されると、歌舞伎役者の衣装に使われたことで一気に人気が上がりました。

また漢方医が制服の代わりに着用していたことから、男女とも愛用されてるようになりました

御殿女中や医師が着ていた物は、時代劇で見かけるような大きな格子ではなく、無地や小格子、細縞が主流だったようです。

江戸後期に庶民が着るようになってから、大胆な格子に黒繻子の掛け衿の現在のイメージが定着しているようです。

 

このような歴史の中で、黄八丈は1977年に国の伝統的工芸品に指定されています。

「黄八丈めゆ工房」とは

山下家は、め由をはじめとし、娘の八百子、孫も芙美子の女3人の所帯でした。

山下家の先祖は江戸時代に海運業を営んでおり、め由の祖父の与惣右衛門が早くに父を亡くした孫娘のめ由を引き取り八丈島に古くから伝わる泥染の秘伝を伝授したそうです。

山下家は染を生業としていますが、め由は黄八丈の歴史において染の伝統の化身ような存在で、伝説的な人物として当時のメディアにも取り上げられています。

め由の娘の八百子は、曽祖父である山下与惣右衛門氏から指導を受け、また母親のめ由からも多くを学び、独学で島の女性たちから織を、更に柳悦孝(民芸運動の創始者である柳宗悦の甥)の教えを受けて多様な柄の組方での織りを学びました。

め由の染の技術と八百子の織りの技術が結合して、山下家の黄八丈の技が完成しました。

 

め由は黄八丈の染、八百子は染だけでなく織の技術も傑出し、め由は1984年に八百子は1986年に東京都指定無形文化財技術保持者に認定されています。

「黄八丈めゆ工房」は、組合に属さずに家族だけで古くからの技法を守り、古来から伝わる染や織の技法を親子代々の職人として忠実に受け継いでいます。

現在は芙美子さんが織を、ご主人の譽さんが染色を担当し、2人を中心とし現代の時代にあった黄八丈を制作されています。

「黄八丈めゆ工房」の糸

「黄八丈めゆ工房」では、新小石丸の絹糸が使われています。

この新小石丸は、昭和天皇の母宮から譲り受けた極細で美しい糸を作り出す小石丸という蚕を掛け合わせたものになります。

皇居内にある紅葉山御養蚕所で飼育される日本古来の原蚕種である小石丸の姉妹品種になります。

 

「黄八丈めゆ工房」で作られる作品は、黄八丈の中でも最高級品とされており、他の組合等の黄八丈に比べると生地がしなやかで上品な光沢があります。

この生地のしなやかさや光沢感は、新小石丸の糸を織り込んでいるからです。

 

「黄八丈めゆ工房」の黄八丈のしなやかさや上品な光沢感は他の紬織のきものと比べても、群を抜いて素晴らしいと思います。

新小石丸の極細の糸により反物の厚みも違いますし、それによる着心地の良さはもちろんのこと、たとう紙を開けた時の光沢の素晴らしさや絹の音は極上で格別で、何度触れても感動してしまいます。

「黄八丈めゆ工房」の黄八丈に触れるたびに「糸の持つ力」「糸の質」がいかに重要かを感じてしまいます。

見た目だけの綺麗さに拘るのではなく、着物の本物の美しさや素晴らしさの原点は「糸」によるものなのだと感じずにはいられません。

「黄八丈めゆ工房」の糸染め

黄八丈は、八丈島に自生する草木を染料とした純粋な草木染で、「刈安の黄色」「マダミの鳶色」「椎の木と泥の黒」の3色を基調とし「白」を組み合わせて独特の配色を織り上げられています。

多くの業者が化学染料を利用するようになりましたが、め由は八丈島に自生する植物染料に拘りました。

現在でも「黄八丈めゆ工房」では、め由から引き継がれている植物染料や媒染、山中の泥沼での泥染など、すべてが八丈島の豊かな自然に由来するものになっています。

 

現在「黄八丈めゆ工房」では分業体制が確立されており、芙美子さんのご主人の譽さんを中心として染めが行われています。

八丈島の草木を使えばあらゆる色を染め上げることが出来る中、黄八丈の3色は「不自由の中から生まれる自由。行き着くところは従来の3色」なのだそうです。

3色の染め糸にも関わらず、出来上がった作品には緑色を感じさせるものもあり、とても不思議な感覚に陥ってしまいます。

「黄八丈めゆ工房」の染め

八丈島では染液のことを「煎汁(ふし)」、媒染のことを「灰汁づけ(あくづけ)」、泥媒染のことを「泥づけ」と呼んでいます。

 

一般的に、媒染液には酢酸鉄やミョウバン、硫酸銅などが使われていますが、本来の草木の持っている色合いとは違ったものとなってしまう場合があるため、黄八丈では木を燃やしてできる灰を水に溶き、その上澄み(灰汁…あく)や沼の泥などの自然の物を使って媒染しています。

自然の媒染剤を使用し、数10回も繰返される染色法により、深みのある綺麗な色に染め上がるといわれています。

黄染めの灰汁づくり

八丈島の梅雨が明けた八月初旬頃の良く晴れた風のない日に、椿と榊を焼きます。

このことを灰焼といいます。

一年分の灰をまとめて作るため、椿と榊を3000kg以上準備します。

この椿と榊を三日以上かけて、真っ白な灰になるまで燃やし続けます。

出来上がった灰を水の入った甕に入れ、よくかき混ぜ分離するまで1週間程置きます。

その上澄みをすくったものを「灰汁」として用います。

黄八丈の黄染め

黄染めには、八丈刈安(コブナグサ)という植物で染め、椿と榊の灰汁で媒染します。

八丈島ではコブナグサのことを刈安と呼んでいます。

 

・刈り取った八丈刈安を乾燥させ、水と一緒に窯に入れ色素を抽出し煎汁(ふし)を作ります。

・煮出した煎汁(ふし)に糸を一晩漬けて天日で乾燥させます。

・煎汁(ふし)に浸して上部を布で覆い、糸が直接空気に触れないようにして翌日まで漬け込みます。

・翌朝に糸を取り出し、よく絞って屋外で竿にかけて夕方まで乾燥させます。

・完全に乾燥したら、新しい煎汁(ふし)に漬け込み、このことを「煎汁づけ」といいます。

・「煎汁づけ」と乾燥を15から20回繰り返します。

・椿と榊の灰で作った灰汁(媒染剤)を、少しずつかけながら揉み込むと、鮮やかな黄色に発色します。

 

八丈刈安は、かつては島に自生していた植物でしたが減少したため、山下家では畑で栽培しています。

黄色の染は繊細で、コブナグサはその年によって色素が出ないこともあるようです。

鳶八丈・黄八丈の樺染め

樺染には、マダミ(タブの木)の樹皮で染め、マダミの灰汁で媒染します。

八丈島ではタブの木をマダミと呼んでいます。

 

・タブの木の生皮を剥し、水と一緒に窯に入れ煮出して樹皮の色素を抽出し煎汁(ふし)を作ります。

・タブの木は生皮でないと色が出ないため、出来るだけ新鮮な生皮を用います。

・煮出した煎汁(ふし)に糸を一晩漬けて天日で乾燥させます。

・煎汁(ふし)に浸して乾燥することを繰り返します。

・マダミの灰汁で媒染を行い暗褐色の樺色に染めあがります。

・樺染めの樺色は、山桃の熟したような色が理想とされています。

黒八丈・黄八丈の黒染め

黒染めには、椎の木の樹皮で染め、泥の鉄分で媒染します。

 

・数年乾燥させた椎の樹皮を使用して、煮出して樹皮の色素を抽出し煎汁(ふし)を作ります。

・煎汁(ふし)に浸して一晩おき乾燥させます。

・煎汁(ふし)に浸して乾燥することを15.6回繰り返します。

・山下家に代々受け継がれている山中の沼で「沼づけ」と呼ぶ椎で染めた糸の媒染を行います。

・沼の泥はざるで漉して小石やゴミを取り除き、バケツに移した滑らかな泥に薄茶に染まった椎染の糸をムラにならないように浸します。

・バケツに浸しながら泥を揉み込み、2時間以上そのままにしておきます。

・清水で泥やゴミを洗い流すと、泥の鉄分と椎の色素が反応して糸は黒色に染めあがります。

・この後、染めと「沼づけ」を数回繰り返します。

 

泥媒染は奄美大島や久米島、八丈島だけで行われている珍しい技法です。

黄八丈の中でも黒八丈は数少なく、とても貴重です。

黒八丈の重厚で奥行きのある黒色の輝きは、紬織という一般的に持たれているカジュアルなイメージとは全く異なる分類の織物だと感じます。

「黄八丈めゆ工房」の織り

昔は地機で織られていましたが、現代では高機で織られています。

平織や綾織でおられており、綾織には市松綾織や変形市松綾織、小格子などがあり、高機で手織りで織り上げられます。

 

織りは芙美子さんを中心に女性が行っています。

毎年、糸を染め糸を確保し新しいデザインが決まると糸と相談するように糸を取り出し、織の準備を始めるのだそうです。

同じデザインの作品は作らないというところも魅力で、黄色、鳶色、黒色を基調とし様々な織物を作りあげています。

 

また、ご主人の譽さんは地機やカッペタ織にも取り組むなど、研究熱心に意欲的に取り組まれています。

平成11年に21年をかけて復元した永観帳は、柳悦孝さんの指導により当時の糸で当時と同じように地機で制作されたようです。

「黄八丈めゆ工房」の山下家の黄八丈の着物の価格、値段

黄八丈といえば無地や縞、格子ですね。

同じ色目の無地でも、織り方が異なると全く異なったイメージに感じられます。

山下芙美子さんは無地に限らず、黄八丈の訪問着も制作されているので見ごたえがありますね。

 

最近のデパートなどでの価格帯は90~となっています。

着物の平均的な価格は、デパートで提示されている価格が参考になりますが、呉服店により結構な価格の差があるので、ネットに参入されている呉服店の価格帯やセールの有無、期間などはチェックしておいた方がいいと思います。

地方の呉服店ではびっくりするような価格になっていることが多いので要注意です。

びっくりするような価格とは、平均価格の3倍とか平気にあるので、是非確認してみてください。

黄八丈・山下八百子作・草木染・綾織・無地

[東京都無形文化財技術保持者]草木染 黄八丈 山下八百子 平織 紬地 布松 片綾 片見変わり とありますが、草木染・綾織・無地のように見えます。

黄八丈・山下芙美子・市松綾

黄八丈 山下芙美子 市松織

鰹縞のように色の変化が楽しめる黄八丈です。

このような縞の着尺は仕立方(色の配置)によって、着姿の印象がかなり変わってしまうので、色(柄)の配置にはこだわった方がいいと思います。

掛け衿には明るめの色目にして・・・

追い裁ち合わせにするかしないか・・・

追い裁ち合わせの場合は小紋の印象で、同じ色目を合口に合わせて仕立てると絵羽のような印象が強くなります。

着尺の柄合わせを「裁ち合わせ」、縫い目の部分を「合口」といいますが、私は、合口に同じ色目を合わせて仕立てるのが好きです。

黒八丈・山下八百子・市松綾織

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「黄八丈めゆ工房」の山下家の黄八丈は、反物の端が白の「白耳」が特徴となっています。

泥染めの黒八丈は生産数も少なく、とても貴重な着物だといわれています。

本場黄八丈・黒八丈・8寸名古屋帯

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こちらは、黄八丈の組合の商品になりますが、黒1色の名古屋帯は珍しいということなので、ご紹介しました。

20程で販売されていることもあります。

「黄八丈めゆ工房」山下八百子氏の黄八丈の着物

「黄八丈めゆ工房」の山下八百子の黄八丈の着物

山下八百子さんの、細かな綾織の黄八丈です。

光沢感が素晴らしく、光の当たり方によって陰影が付きます。

たとう紙を開くたびに、毎回新鮮な感動を与えてくれる着物はなかなかないと思います。

かなり、お気に入りの1枚です。

「黄八丈めゆ工房」の山下八百子の黄八丈の着物・八掛の色は山下八百子の証紙の色と同じ焦げ茶色

かなり悩んで決めた八掛の色は、山下八百子氏の証紙札の色と同色です。

黄染めの鮮やかな黄八丈ですが、この焦げ茶色にしたことで締まって落ち着きのある雰囲気の着物になったと思います。

この焦げ茶色の八掛は結構褒めていただくことがあるので、嬉しいです。

終りに

「黄八丈めゆ工房」の他に組合の黄八丈や、色合いを模した類似品の米沢八丈や秋田八丈などがありますが、黄八丈に興味のある方には、黄八丈の中でも別格の「黄八丈めゆ工房」の山下家の黄八丈を是非一度目にしてほしいと思います。

心が揺さぶられるほどの美しさです。

 

某呉服屋の女将は、来客の黄八丈を「めゆさんの黄八丈ですね」とすぐに分かる様子でした。

また、とある展示会にデヴィ婦人目当てに伺ったところ、着物好きのデヴィ婦人に「あら、黄八丈じゃないの」と黄八丈への関心の高さも感じられます。

 

私が今個人的に興味があるのは、山から切り出した椎の樹皮の染液で染め上げたグレーの糸を使って織り上げられた黄八丈です。

年によって染め上げる糸の色が決まっているようで、その年によって出回る黄八丈の色目の傾向が決まっています。

染め糸の詳しい情報はわかりませんが、椎の樹皮で染め上げた糸を使った黄八丈を拝見できるのを楽しみにしています。

 

山下家の黄八丈は芙美子さんで3代目ですが、後継者に関しては他の着物業者や伝統工芸と同じように解決されていないようです。

「黄八丈めゆ工房」の山下家の黄八丈に興味のある方は、機会を作って早めに見たり触れたりすることをお勧めします。

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