夏きもののお手入れで忘れてはならないのが、「汗抜き」です。
夏きものの悩みとして汗対策がありますが、夏きものには汗がつきものです。
そこで夏の着物の汗の汚れには「汗抜き」のお手入れが必要になってきますが、「汗抜き」だけでは駄目なの?「丸洗い」では駄目なの?と疑問がわいてきます。
今回は、汗のトラブルが多い部分を中心に自分でする「汗抜き」の方法や、シーズン終わりでのお手入れ方法、また「汗抜き」だけでなく「丸洗い」の両方のお手入れが必要なことについてまとめてみました。
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汗の役割とは
汗は皮膚にあるエクリン腺とアポクリン腺という汗腺でつくられています。
通常の汗はエクリン腺による汗で、体の体温が上がった時に恒常性の働きにより体の水分を汗として放散させることで体温調節をしています。
体温調節による発汗を温熱性発汗といい、それ以外にもストレスを感じた時に出る精神性発汗や辛い物などの刺激物を食べた時に出る味覚性発汗があります。
汗の種類
・温熱性発汗・・・体温が上昇したときの体温調節による発汗で全身に発汗する。
・精神性発汗・・・ストレスなどによる発汗で手のひらや足の裏に発汗する。
・未覚性発汗・・・辛い物などの刺激物による発汗で顔や頭を中心に発汗する。
汗の成分
通常のエクリン腺による汗の成分は、ほとんど99%が水で、残りの1%にはナトリウムやカリウム、塩素、カルシウ、アンモニア、尿素、乳酸などが含まれています。
また汗の成分は季節によって微妙に異なり、春先から夏にかけては、ナトリウム、カリウムなどの含有量が高くなる傾向があります。
汗腺は発汗する働き以外にも濾過機能があり、濾過機能により汗の成分の99%が水になっています。
汗の塩分濃度と汗の量は比例するといわれていて、大量の汗をかくとそれだけ多くの塩分が放出されていることになります。
汗が多く出る部分の脇や帯の胴回り部分、背中の帯枕が当たる部分は汗を多くかきやすい部分です。
汗による黄変や生地の変質、臭いの元になる部分として特に汗抜きのお手入れが必要になる箇所です。
汗の染み込みやすい、付きやすい部位
夏のきものの装いは残念ながら汗はつきものと考えるのが通常になっています。
まず思い浮かべるのは胴回り部分だと思います。
着物を着るときは腰紐でしっかりと結ぶ必要があり、更に帯を巻くのでどうしてもその部分で空気の流れが遮られてしまいます。
また、汗腺の多い脇部分も汗の付きやすい部分になります。
脇の汗は体の構造上、身体的動作上、背面方向ではなく前方方向に流れる傾向があるようです。
確かに脇部分を見てみるよ、背面部分よりも前方部分の方が汗の染み込み範囲が広いように感じます。
皆さんも着物に限らず、洋服の汗の付き方を見て確認してみてください。
胴回りと脇部分は比較的予想出来る部分なのですが、夏の着物の汗で、ダメージの大きいトラブルが多いのが帯枕のあたる背中の部分です。
背中の僧帽筋の部分にちょうどあたるせいなのか、私の汗トラブルのほとんどが帯枕の部分で起こっています。
帯枕部分のトラブルを具体的にあげると、「夏お召しが縮んだ」「2月だったけど着物を通して帯にまで汗が染み込んだ」などがあります。
きもの愛好家の中でも夏の着物の汗のトラブルで、帯枕部分の「藍染めの着物の藍が帯に色移りした」などのトラブルにあわれた方もいらっしゃいます。
意外と忘れがちなのが掌があたる上前の膝上部分です。
着物を着ている時は両手の手を添えいることが多いように感じます。
両手の手を添えた時にあたる上前の膝上部分は、手の汗が付きやすい部分になります。
手に汗をかきやすいという方は、ハンカチを持つなどして汗が着物に染み込まないように気をつけると良いと思います。
・胴回り部分・・・腰紐や帯を巻くので風の通りが出来ない。
・脇部分・・・汗腺が多い脇部分では発汗量が多く前方に流れやすい。
・帯枕部分・・・帯枕の密着や僧帽筋のより、風が通らず発汗しやすい。
・上前の膝上部分・・・手の汗が付きやすい。要注意部分です。
夏の着物の汗対策・・・汗を出来るだけ着物に染み込ませないための汗対策
自分で出来る汗抜きの方法
汗はすぐに汚れがわかるものではなく当初は目立ちにくいので放置してしまいがちですが、そのままにしておくと時間の経過と共に汗の成分が変化し 、黄変や生地の変質、臭いの原因になってしまいます。
汗による汚れは時間の経過と共に黄変や生地の変質、臭いなどの着物のトラブルの範囲が大きくなり改善しにくくなります。
汗抜きの処理は着物を気持ちよく永く着用しるために行っておきたいお手入れです。
陰干し前にブラッシングで埃落とし
全ての着物や帯などに共通して行いたいお手入れ方法です。
外出によって着物には目には見えない細かな埃などの汚れが付着しています。
絹に優しい天然素材のブラシを使って裾や袖、襟元などを中心に、全体の汚れを取り去ることが効果的です。
着用毎の簡単なお手入れできものの汚れ方が随分と違ってきます。
自分で汗抜きのお手入れをするときは、必ず行っておきたいお手入れ方法です。
きものハンガーにかけて陰干し
通常では一番大切なのは、早く湿気を飛ばすことです。
帰宅したらすぐにきものハンガーに掛けて湿気を飛ばします。
きものハンガーにかけるときは、きものを裏返しにして陰干しにします。
風通しの良い部屋に干すのが一番良いですが、扇風機を使って風に合わせるのも効果的です。
自分でする汗抜きのお手入れ方法
かなり汗をかいた時は、陰干しする前にきものの下にタオルを敷き湿っている脇や胴回り、帯枕の部分にきつく絞った濡れタオルを押し当てて汗を乾いたタオルに移します。
又は、同様に汗の染み込みがある部分に軽く霧吹きをして、乾いたタオルに汗を移します。
汗をタオルに移してから陰干しをします。
風が通らない部屋の場合は、扇風機やドライヤーの冷風をあてて乾燥します。
ドライヤーの温風では汚れの定着になる原因になる危険性があるので、必ず冷風を利用するのがポイントになります。
また、乾燥に時間がかかると輪シミの原因にもなるので、短時間で乾燥させるのがポイントになります。
汗の染み込み、付着の確認方法
汗は目に見えて分かるものではないので、ついつい見過ごしてしまいがちです。
しかし、汗の成分は確実にきものに残っています。
そこで、汗の染み込み、付着の確認方法を知っておくと便利です。
陰干しして乾燥させたあと、着物の皺の有無を確認します。
一晩干しても皺がくっきりと残っている場合、その部分には汗が染み込んでいることになります。
汗の染み込みやすい部分で挙げたような、胴回り部分や脇部分、帯枕部分に皺が多く、よりくっきりとした皺が残っていると思います。
夏のきものではこのような確認をしなくても、汗の染み込みは起こっていると思っていた方がよいのでが、袷の着物での確認方法として知っておくと便利です。
シーズン終わりのお手入れ・汗抜き
麻や上布のきものは着用毎にこまめに部分的に汗抜きを行うことで、比較的気持ちよく着用できると思いますが、汗を完全に取り除くには、やはりシーズン終わりにプロに「汗抜き」をお願いしたほうが良いと思います。
また、正絹のきものの場合は、着用毎のお手入れを自分でするのは勇気のいる作業です。
正絹の着物に関してはよほど慣れている方以外は、シーズン終わりにプロに「汗抜き」「丸洗い」をお願いしたほうが良いと思います。
着物のことを中心に述べていますが、この汗抜きは特に正絹の長襦袢に行いたいお手入れ方法になります。
正絹きものや長襦袢は湿気に弱く汗にも弱いです。
肌に近い長襦袢は、きもの以上に汗を吸いこんでいるので、夏の正絹の着物を着て汗をかいた時は汗抜きは必ず行った方が良いと思います。
直接汗が付着しなくても汗の蒸発分が移っている可能性が高いので、着物も汗抜きをしておくと安心です。
「汗抜き」と「丸洗い」の違い
「汗抜き」のお手入れとは
「丸洗い」のお手入れとは
「丸洗い」とは、脂溶性の汚れなどの皮脂汚れに効果的なお手入れ方法です。
脂溶性の汚れに効果的な一方、水汚れには弱い性質を持っています。
洋服のドライクリーニングのようにウールやスーツなどの水洗いすると型崩れを起こす時に活用されているお手入れ方法と同じように思うと、理解しやすいと思います。
汗のような水溶性汚れには効果が薄いので、少しづつ蓄積された汗汚れが黄変や臭いの原因になり、着物の生地を劣化させることになります。
綿素材でいうと、ドライクリーニングでは汗に対する洗浄率が悪く、70%も汗が残っているといわれています。
木綿の着物の汗の染み込みにも同じことがいえるので、木綿の単衣のきものにも「汗抜き」は必要なお手入れ方法になります。
「汗抜き」と「丸洗い」の両方のお勧め
汚れには大きく分類して「水溶性の汚れ」と「脂溶性の汚れ」の2種類があります。
「汗抜き」では、汗などの水溶性の汚れを綺麗にすることが出来、「丸洗い」では、皮脂などの脂溶性の汚れを綺麗にすることが出来ます。
「汗抜き」だけだと全体的な着用汚れが残ったままで、「丸洗い」だけの場合は汗の成分が残ったままになってしまいます。
「汗抜き」と「丸洗い」はそれぞれ違う種類の汚れ一方にたいしてのみ効果的なので、費用がかかりますが両方を同時に行うことで、大切な着物を長く気持ちよく着ることができます。
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