箪笥の中の着物が「カビかも」「カビ臭い」と感じた時、カビ取りクリーニングが必要になります。
カビの進行度によってカビの色の違いや着物の劣化の違いがあり、カビ取りクリーニングの方法が異なってきます。
カビの状態を把握して適切な応急処置やカビ取りクリーニングを行いましょう。
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着物や帯のカビ取りクリーニング カビの臭い取りや応急処置 原因や予防方法
着物のカビの進行度の見分け方
着物に発生したカビは、カビの色の変化によってカビの繁殖の進行具合を判断することが出来ます。
着物に発生したカビは、時間の経過とともに「白→黄→黒」の順に色が変化していきます。
カビが発生して繁殖していくとともに、広範囲に生地の表面だけでなく繊維の奥にまで侵入してしまいます。
更に進むと後期症状として、着物の地色が抜ける、柄の色が変わるなどの変化が現れます。
白カビの見分け方
小さく輪郭のぼやけた白い斑点が、着物や帯の表面についているのを見つけたら、それは初期の段階の白カビです。
ふわふわとした状態で生地の表面に付着ているように存在します。
黒い色の着物ではわかりやすいですが、色の薄い着物の場合は気づかない場合があります。
光が当たった時などに「あれ?」と感じた時は、よく観察して確認するのがよいです。
白カビが発生している状態では、たとう紙が黄色く変色していたりボロボロになっている場合が多いです。
吸湿性に優れた和紙で作られたたとう紙は、湿気を吸収することで黄色く変化していきます。
黄色く変色したたとう紙を使い続けると、たとう紙に含まれた湿気、カビが着物に移ってしまいます。
小さく輪郭のぼやけた白い斑点の白カビが数個程度の状態は、カビが発生してまだ時間が浅い状態です。
黄カビの見分け方
白カビが発生して5、6年、何も手を加えず放置しておくと、カビは黄色に変色した状態になります。
表面に付着している感じではなく、繊維に汚れが定着しているような状態になります。
10年近く箪笥の中に入れっぱなしにしておいた状態に起こりやすいですが、条件が悪い場合はもっと早い期間でも黄カビに進行してしまいます。
この状態では、ドライクリーニングで対応することが難しいので、解き洗い張りやシミ取りが必要になります。
同じ引き出しの中の着物や帯にカビが移る恐れがあるので、すぐに取り出しておく必要があります。
黒カビの見分け方
黄カビがさらに進行すると黒カビになります。
カビが発生してから15年から20年ほどそのままにしておくと、「黄色→焦げ茶→黒」に変化していきます。
裏生地に黒カビが繁殖している場合が多いですが、そのような時は表生地も同じようになっている可能性があるので要注意です。
黒カビにまで進行してしまうと、もう手の施しようがありません。
着物の胴裏が黒色に変化している場合がありますが、そのような場合は、生地自体も繊維が弱くなっているので染め替えを行うこともできません。
新しい生地に取り換える必要があります。
着物のカビがかなり進んだ状態の見分け方
着物のカビの進行が進むにつれて、カビの繁殖範囲がどんどん広くなってきます。
白カビや黄カビ、黒カビが入り混じった状態になっている場合もあります。
更に着物の生地の地色や柄部分の色抜けや変色を起こします。
このような脱色や変色が起こってしまうと、生地自体へのダメージも大きくなるので、修復にも気を使わなくてはいけません。
着物のカビの臭い
カビの繁殖によって着物や帯から「何か変な匂いがする」「ホコリ臭い匂いがする」「換気をしてもまた臭くなる」と感じたら、カビの臭いの可能性が高いです。
カビの臭いが感じられる場合は、カビの繁殖の範囲が広く進んでいるといえます。
着物のカビが生えやすい場所 チェックポイント
汗が吸収されやすい場所や食べこぼしなどの汚れが付きやすい場所は、カビの栄養分が豊富なのでカビが生えやすい場所といえます。
汗が吸収されやすい場所
- 着物の裏側、胴裏
- 脇、腰、背中
- 膝の裏
着物の裏側は体に近いので、まず胴裏の裏生地で汗を吸収します。
汗を多く吸収しているので、カビの繁殖の進行も早い傾向があります。
汗腺の多い脇や帯の下の腰回り、帯枕が当たる背中の部分は、体に密着して風通しも悪い部分なので、どうしても汗が出やすい部分です。
正座をする時間が長い場合は、膝裏の汗が着物に吸収されてしまうので要注意な部分です。
食べ物などの汚れが付きやすい場所
- 胸
- 膝上
食事中に食べこぼしが付きやすい胸や膝の上前部分は汚れが付きやすい場所です。
膝上の部分は食べこぼし以外にも、掌の汗が付きやす部分なので注意が必要です。
掌に汗が出やすい人は、気を付けてチェックしたい場所です。
着物のカビ取りの前に自分でできる応急処置
カビの発生を見つけたら、それ以上広がらないように応急処置をしておくと良いです。
極々初期の着物の表面に白カビが付着している程度の処置として活用することもできます。
着物の表面の白カビを取り除く
【準備する物】
- ベロアなどの布(乾燥している布)
- マスク
- 着物ハンガー
- 掃除機
白カビが極初期の場合は、応急処置で済むことがあります。
カビを吸い込まないようにマスクを着用します。
カビ菌をまき散らさないためにも屋外で作業するのが理想的ですが、屋外で行えないときは玄関先や窓際など、換気をしながらカビの胞子が外に出やすい場所で行います。
掃除機を使って吸い込ませるのも良いです。
【応急処置の手順】
まず指を使って直接カビの部分を触らないようにカビが生えている場所の周辺を軽くたたきます。
次に乾燥した布を使ってカビの表面を軽く払います。
強く押し付けたり擦り付けたりして、カビが繊維の中に入り込まないようにすることがポイントです。
表面のホコリ状の白カビが除去できたとしても、繊維の奥に白い斑点のような汚れが残っておる場合は、カビの根が繊維にまで入り込んでいる状態です。
繊維の奥にまで入り込んでしまったカビは、自分では処置することは難しいです。
下手に手を加えることはせずに、専門家に相談することをおすすめします。
【応急処置でやってはいけないこと】
- 濡れた布で触る
- エタノールなどの消毒剤を使う
濡れた布でカビの部分を触るのはやめましょう。
カビの原因の1つが湿気なので、濡れた布で湿気を与えることになるので行ってはいけません。
また絹の素材に水分を与えると、輪ジミや生地の縮などが起こりカビ以外のトラブルの原因になってしまいます。
家の中に発生したカビの場合は、消毒用エタノールを使い除菌する方法がありますが、着物や帯の素材である絹には使ってはいけません。
生地の劣化や染めの色落ち、変色を引き起こす危険があります。
他の部分 他の着物へのカビ移りを防ぐ
小さな白カビを見つけた場合は、その着物の他の部分にもカビが発生していないか確認します。
何個か見つけた場合は、応急処置だけで済まさずに専門家に相談することをおすすめします。
同じ引き出しの中の他の着物にカビが移っていないかを確認します。
たとう紙が黄色く変色している場合は、注意が必要です。
同じ引き出しの中の着物や帯の多くにカビが移っている場合は、その引き出しの上下の引き出しの中身も確認します。
着物や帯以外の小物類も同様に確認します。
すべての着物・和装小物を虫干しする
着物や帯にカビを見つけた場合は、カビが発生しやすい状態だということです。
カビの発生の原因は主に湿気と汚れです。
まずは、湿気を取り除くために、箪笥の中の着物や帯、小紋類すべてを虫干しします。
カビの発生しやすい環境であった箪笥自体も乾燥します。
こまめに部屋の換気を行うなど、湿気がこもらないように心掛けましょう。
たとう紙を交換する
たとう紙が黄色や褐色に変色している状態で使い続けていませんか?
このようなたとう紙の変色は、たとう紙にたっぷりと湿気が含まれたことで起こります。
そのまま使い続けると、たとう紙で吸収しきれない湿気が着物に移ってしまいます。
たとう紙の色の変化はたとう紙を交換するサインになるので、大切な着物や帯に湿気が移らないうちに交換することをおすすめします。
着物のカビの臭いを取る
【着物のカビ臭い匂いを取る方法】
- 陰干しする
- 扇風機を当てる
- ドライヤーの冷風を当てる
陰干しする
見た目にカビが見当たらない場合は、陰干しをして風にあわせることで着物の臭いを飛ばします。
扇風機を当てる
陰干しと同じように着物ハンガーに掛けて、扇風機の風を当てます。
風量が強いと着物が動きすぎるので、ゆらゆらと揺れる程度の強さが適しています。
表側裏側をそれぞれ30分ほど扇風機の風にあわせて、臭いが取れたか確認します。
ドライヤーの冷風を当てる
着物全体にドライヤーの冷風を当てます。
表側裏側共に全体的に冷風を当てて、臭いの取れ具合を確認します。
風にあわせても、カビの臭いが取れない場合は、着物の繊維の中にカビが繁殖している可能性があります。
見た目には綺麗でもカビの臭いが残っている場合は、専門店で相談することをおすすめします。
臭い取りで済む場合や洗い張りを行う必要があるのか確認しましょう。
【着物の臭い取りでやってはいけないこと】
- 消臭スプレーを使う
- スチームアイロンをかける
- アルコールを使った除菌
消臭スプレーを使う
洋服では消臭スプレーを気軽に使いますが、それらは主成分が水であるので絹素材の着物には行ってはいけません。
濡れた布を使うのと同様に、輪ジミを作ってさらなるトラブルに繋がってしまいます。
スチームアイロンをかける
洋服の場合、スチームアイロンをかけると殺菌効果が期待できます。
しかし、蒸気によるスチームアイロンは着物の生地を縮ませることもあります。
蒸気による湿気がカビの繁殖を加速させることにも繋がります。
アルコールを使った除菌
一般的なカビ菌には純度の高いアルコールを使うことで除菌することが出来ます。
しかし、着物の生地に使われている絹には、アルコールやエタノールなどを使うことが出来ません。
大切な着物が色落ちや変色などが起きてしまい、取り返しのつかないことになってしまいます。
水やアルコールを使った自己流のお手入れは行わず、専門家に相談することをおすすめします。
着物のカビ取りの応急処置ができない例
極々初期の白カビ以外は、自分で応急処置をすることが出来ません。
残念ですが、すでに手遅れ状態といえます。
素人が下手に手を加えると更に手がかかることになってしまうので、そのままの状態でビニールなどに入れて、なるべく早く専門家に相談することをおすすめします。
【応急処置ができないカビ】
- 広範囲にカビが広がっている
- 黄色や褐色にカビが変色している
- 黒色にカビが変色している
- 着物の地色や柄部分が変色している
- カビの臭いが強い
着物のカビ取りクリーニング 着物のカビの解決方法
カビ菌は一度発生してしまうと自分では綺麗にすることが難しいです。
応急処置で表面上は綺麗になったとしても、カビ菌の根を除去することはできません。
見た目に綺麗だからとそのまま収納してしまうと、またカビが繁殖してしまいます。
カビがこれ以上広がらないためにも、応急処置の後に専門家に相談することをおすすめします。
白カビのカビ取りクリーニング
着物のクリーニングといえば着物の丸洗いで行われる有機溶剤を使用したドライクリーニングですが、この方法だけでは着物のカビや臭いを綺麗にすることはできません。
着物のカビに対しては、カビ取り専用の有機溶剤が使われます。
まずベンジンやカビ取り用の特殊溶剤でカビやしみの部分を下洗いをしてから、全体を洗います。
着物のカビ取りは、丸洗いではなくカビ取りや臭い取りを取り扱っている着物専門店で依頼することをおすすめします。
1番良い対カビ取り方法は、着物を解いて水洗いを行うことですが、この洗い張りを行う場合は、解き代+洗張り代+仕立て直し代がかかります。
洗い張り仕立直しは和裁工房まゆでリピート決定!8つの選ぶ理由
解き代+洗張り代+仕立て直し代を合わせると、通常では30000円~の費用がかかることもあり、最近ではカビ取り専門のクリーニングが主流になってきています。
着物専門店でのカビ取りメニューは、取り扱い店によって様々なので比較検討が必要です。
黄カビ 黒カビ かなり進んだ状態のカビ取りクリーニング
表生地、裏生地のカビによる変色が進んだ状態の場合、着物の専門家に相談することをおすすめします。
綺麗にする方法がいくつかある場合もあり、価格もそれぞれ異なるので、すべてお任せにすることは避けた方がいいです。
どのような方法があるのか、かかる費用の見積もりなどを事前に確認をして、納得のいく方法で大切な着物や帯を綺麗にしましょう。
【カビの繁殖範囲が広い】
着物を解きて洗い張りをする必要があります。
カビを綺麗にするには、カビを水で洗い流さなくてはいけません。
仕立てた状態の着物のままで水洗いをすることはできないので、着物を解き1枚の反物に戻して洗い張りをして水洗いをします。
【胴裏が変色している】
胴裏が褐色や黒色に変色している場合は、胴裏を交換する必要があります。
洗い張り後に染め直して再利用することもできますが、カビにより生地の劣化がある場合は、染め直しすることが出来ません。
【地色が変色している】
染め直し補正が必要です。
【柄部分が変色している】
柄の描き直し補正が必要です。
着物のカビ取りクリーニング カビ臭い時の応急処置 カビの進行度のまとめ
【カビの進行度】
白カビ→黄カビ→黒カビの順に進行していきます。
【応急処置】
- 白カビの軽度の場合は有効
- 乾燥した布で軽くたたいてカビを払い落とす。
- 極々初期の小さな白カビの場合は、応急処置で済むことがある。
- カビが他の着物に移らないように隔離する
- 繊維の中に白い汚れが確認できる場合は、着物の専門家に相談する。
【カビ取りクリーニング】
- 白カビが繊維に入り込んだ場合、黄カビ、黒カビはカビ取りクリーニングが必要。
- 白カビはカビ取り専用のクリーニング方法がある
- 広範囲の白カビや黄カビ、黒カビは、洗い張りが必要
- 黄カビや黒カビは、胴裏替え、地色補正、柄補正などが必要